ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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脅迫するものはされるもの 3

 「暴力反対あるねー人類皆兄弟ね話せばわかるねわからなかたらポリースと通訳呼ぶよろし、国税局引っ張ってくるよろし。張、逃げも隠れもせず青竜刀研いで待てるよ闘る気満々よ」
 目の前で中国人が大量の唾とばしくっちゃべる。
 饒舌で煙に巻こうって魂胆かぶん回す手振りも派手派手しく過剰に陶酔し、訛りがひどい上にやたらと早口の日本語で熱弁ふるう。
 「この人黙らせましょうか」
 「待て、穏便に行こう」
 「とりあえず縛るもの持ってきてください」
 「穏便じゃねえだろ!?」 
 噛み合ってねえ。
 変装用ニット帽をひっぺがされ部屋に引きずり込まれた中国人はさっきからしゃべり通し、泳ぐのをやめたら死ぬ鮫さながら口を閉ざしたら即死とでもいうふうな強迫観念に取り憑かれ完全にパニック来たし手ぶりあたふたとハッタリかます。
 状況を説明しよう。
 現在、1LDKの手狭な部屋の中には三人の人間がいる。
 即ち、俺と千里と中国人。
 中国人は張と名乗った。目深なニット帽を取り払った顔は意外と若くにも老けてるようにも見え年齢不詳、ついでに職業も不明。地味なシャツとぶかぶかのワークパンツを身につけ、日本人に混ざっても見分けつかないだろうのっぺりと特徴のない顔をし、一週間くらい洗ってないのだろう脂でべとつく不潔な黒髪を輪ゴムでひとつに括っている。一言でいうと垢抜けねえ。たった今日本人に混ざっても違和感ないと言ったばかりだが、新宿や渋谷あたりじゃさすがに浮くだろう。巣鴨あたりなら溶けこめるだろうが。
 瞬きの多い小さい目は剽軽な印象で喜劇的なオーバーアクションと相まって間の抜けた油断を誘うが、頭の回転はそう鈍くないのだろうなと闊達なしゃべりで見当つく。
 「で、どうするんだ」
 「縛っときましょうよ、念のため」
 「縛るの好きだなお前……」
 梱包用のガムテープを持ってきて、人権蹂躙だの横暴だの一人で騒ぐ張を後ろ手に縛り上げる。
 「ちょ、何するある!張そちの趣味ないね、縛られて悦ぶまぞだけよ」
 「うるせえ、俺だって好きで男縛ってんじゃねえ。ぎゃあつく騒ぐとふんじばってベランダから突き落とすぞ」
 「バンジー反対ある!地面とオトモダチ御免よ、月餅だて三階から落とす餡はみだすよ!」
 「出るのは味噌だろ」
 往生際悪く見悶えし抵抗する張にうんざり。なんとかテープをほどこうと激しく身をよじってばたつくも、両腕をきつく束縛されバランスとれず、挙句けっつまずいて突っ伏す。
 床でしたたか顎を打ち舌を噛みそこねた張が情けない悲鳴をまきちらすのをよそに、格闘で滴る汗を拭いつつ、隣に立つ千里を仰ぐ。
 「けど、びっくりしたぜ。見かけによらず強いんだな」
 「対痴漢用に護身術習ってたんです」
 「合気道?」
 「力を流すコツさえ掴めば互角以上に立ち回れますしね」
 自慢するでもなく、さりげなく言い放つのに感心する。
 華奢で細身でいかにも軟弱そうなこいつのどこに成人した男一人組み伏せる力があったのかと驚いたが、護身術を嗜んでるなら納得だ。
 思わずまじまじと横顔に見入ってしまってから、今の発言に矛盾を覚える。
 「待てよ。それじゃあの時別に縛ることなかったじゃんか、俺よか強いんなら……」
 「あれは」
 言いかけ、口を噤む。
 ばつ悪そうな表情が一瞬面を掠め、すぐまたいつもの人を食った笑顔に戻る。
 「趣味です」
 ちょっとでも感心した俺がばかだった。
 千里はひどく冷たい目で喚き散らす張の醜態を眺めていたが、手の甲で汗拭く俺をどかし、泰然と前に出る。
 「単刀直入に聞きます。盗聴器を仕掛けるよう依頼したのはどこのだれですか」
 「言えるわけないよこのトンマ。おまんま食い上げある」
 芋虫の如く床に転がった張が意固地に首を振る。供述全面拒否。
 わざとらしくため息を吐き、鼻先にしゃがみこんで視線の高さを合わせる。 
 場が緊迫する。
 千里は相変わらず穏やかに笑ってるが目は一片たりとも笑いの成分を含んでなくて、床でのたうつ張は、刻々と迫りつつあるタイムリミットの焦慮に喘ぎつつ玄関をめざす。
 腕が使えない代わりに膝を使い、悲愴な形相でじたばた悪あがき逃げ惑う張をあえて追わず好きにさせ、千里がおっとり言う。
 「先輩」
 「なんだよ」
 「トンカチもってきてください」
 張が悲鳴をあげる。俺も引く。
 ワインボトルでも受け取るように上品に片手をさしだす千里に対し、引き攣りまくった顔で聞く。
 「トンカチで何すんだ!?何すんだ!?」 
 「ついでにシートか新聞も。後始末大変ですもんね」
 「流血前提かよ!?トンカチは鈍器であって凶器じゃねえし拷問道具にすんな、できるだけ穏便に、血が飛び散らない方向で!」
 「そうか。じゃあ綿棒で」
 「綿棒どうすんだよ!?耳かき拷問!?」
 「やだなあ先輩。……違う穴だってあるじゃないですか」
 何故か、この時の千里の笑顔に怖気をふるう。
 世の中には俺の知らないことがまだまだ沢山あるようだ。
 「……くっ、なんて卑怯な!これが資本主義国日本のやり方あるか!?ご、拷問にも屈しない福建魂見せてやるネ!」
 張がぎりぎり歯軋りし義憤に燃えて息巻く。
 いきりたつ張を射程圏内におさめつつ、その気になればいつでも仕留められるといわんばかりの余裕の歩幅で間合いを詰め耳元で囁く。
 「今から綿棒をあなたの……」
 「いやああああああああああっ、なんでも聞いてくださいある!」
 張、敗北。
 「なに吹き込んだんだ……」 
 恐怖に征服された絶叫を上げ負け犬の背中を丸める張、完全降伏し震える様を愉快そうに見下ろし千里が質問する。
 「まず身元を教えてください」
 「チャン、張民孫……出身は福建……」
 「年齢は?」
 「二十三」
 「へえ、ぼくとおなじだ。どうでもいいけど。お仕事は?電気屋にも錠前屋にも見えませんが」
 「…………」
 苦渋の面持ちで唇を噛む。
 全身の毛穴から脂汗を濁流の如く垂れ流し黙秘する様子に葛藤が垣間見える。
 黙りこむ張の鼻先の床を軽く蹴る。張がびくりとする。傍で見てる俺の方が心臓に悪い。
 「張は……タクシー運転手ある」
 「綿棒を十本ほど」
 「ホントね嘘ちなうよ、故郷ではタクシー運転手ダタけど食い詰めて日本来たよ出稼ぎよ、張こう見えて苦労人よ!?」
 「千里、あんま脅かすなよ……可哀相になってきた」
 「先輩は引っ込んでてください」
 え?俺被害者だぞ?
 自称元タクシー運転手福建出身の勤労青年・張はすっかり怯えきって、小刻みにわななき震えながら千里をうかがう。
 穏やかに笑う千里の底知れぬ威圧と迫力にびくつきつつ、同情誘う潤み目で切々と訴える。
 「張は……張は依頼されただけよ、お金もらてやたよ、仲間もみんなそうよ。張だけ痛い目見るの割合わないよ、逃げた仲間捕まえてきて一緒に袋叩き望むよ」
 「いいから。答えてください」
 この場の主導権を握ってるのはサドっ気全開の千里で、被害に遭った俺はといえば、生き生きと張を嬲る千里に引きまくってる。最近妙に殊勝で大人しいから忘れかけていたが、千里は目的のためなら手段を選ばない人間だった。
 張はだまりこむ。苦悶の形相に、深い懊悩が滲み出す。
 千里は怖いが依頼者はもっと怖いとでもいうふうに、両者を秤に掛けてどっちつかずに揺れる。
 テープで縛られた手首を居心地悪そうにもぞつかせる張にため息ひとつ、埒が明かないと判断し千里が言う。
 「盗聴器を仕掛けるよう命令した人の特徴を教えてください」
 「白いスーツの人よ。お金一杯くれたよ。喜んで仕掛けたよ」
 「こいつ捨てていいか、ベランダから」
 反省の色なく嘯く張を指さし、忌々しく言う。捨てられちゃあたまらないと張がまくしたてる。
 「白いスーツの日本人、二十七位。イケメンだたある。靴ぴかぴか。偽ブランドじゃなくホントのブランドだたよ、張偽物見分ける目には自信あるね。背高くてスタイルよくてモデルみたいだた」
 「やっぱり……」
 張の説明を聞き、鮮明な人物像が網膜に結ぶ。
 白いスーツを着た長身の男、モデルのように均整取れた体躯、黒い光沢の革靴。
 その特徴はすべて、今日見たばかりの男に該当する。
 「知ってんのか?」
 千里は答えない。深刻そうに黙りこみ、壁の一点を見つめ頭を働かせる。
 反応のない千里から床に放置された張へと興味を移し、しゃがみこむ。きつく縛っちまったから、テープが腕に食い込んで痛そうだ。
 「逃げないね、約束するよ。中国人嘘つかない。電話かけたいからこれ解いてよ」
 「不法侵入犯が偉そうに。人んちにずかずか土足であがりこみやがって」
 「ちゃんと靴脱いだよ。証拠のこすようなヘマしないよ、見損なてもらちゃ困るある」
 「語尾アルって今時なんの漫画の影響だよ?」
 「ジャンプ中国でも大人気」
 どうでもいいっつの。
 「解いてくれないと張泣くよ。シクシクヨ。しくごじゅうくヨ」
 「四苦八苦じゃねえのか……」
 噛みあわないやりとりに徒労が襲う。
 縄を解いてくれとしつこく哀訴されためらうも相手はひとりこっちは二人、しかも千里には護身術の覚えがある。よもや逃げられる心配はないだろうと判断、うるさいから解いてやるかと手を伸ばせば我に返った千里が鋭く叱声をとばす。
 「余計なことしないでください」
 「でもこいつ電話かけたいって」
 「電話?だれに?弁護士なんて笑えない冗談なしですよ」
 胡乱げな視線を突き刺され、背筋えび反りで顎の角度を保つ張がまごつく。
 「誤解解いてくれる人。張のオトモダチ、心強ーい味方。その人ならきと張助けてくれるね、お前らの知りたい事教えてくれるよ。というか張実は下っ端で依頼人とはちょとしか会たことないね、何してる人か知らないよ、トモダチなら知てるアル。もともとそちの筋から紹介されたある、張巻き込まれただけよ、お金欲しさに。張無実、超無実」
 カタコトの日本語で懸命に弁解する。
 千里は少し考える素振りをし、顎に添えた手をおろす。
 「わかりました。先輩」
 千里の含意を悟り、張のズボンのポケットに手を突っ込んでまさぐり、苦労して携帯を抜く。
 「どこにかけるんだ」
 「…………この……」
 「森ってやつか」
 登録してある番号にかけ繋がるのを待つ間に、張の耳につきつける。
 俺と千里が油断なく監視する中、張は繰り返し生唾を嚥下し声の調子を整える。
 緊張の面持ち、緊迫の時間。
 心臓が早鐘を打つ。
 携帯が繋がるのが待ち遠しい。
 千里は犯人の心当たりついてるそうだが俺はさっぱりで、黒幕と目される白スーツの男は交差点で言い争ってる現場を遠くから目撃しただけで一度も接触なくて、なのに盗聴されるのは腑に落ねえ。いつのまにか部屋に盗聴器を仕掛けられ他人にプライベートだだ漏れプライバシー筒抜けだったショックもでかいが、そこまで恨まれる覚えもねえのにストーキングされるほうが気味悪ぃ。
 張いわく、自分は下っ端にすぎないとのこと。ヤツの証言を鵜呑みにしたわけじゃないが、多分、それは真実だろう。なるほど、張はいかにもザコっぽい。
 張とその仲間に盗聴器の仕掛けを命令した黒幕がこの「森」という人物なら、どうして俺をターゲットにしたのか、理由を知りたい。
 携帯が繋がる。
 敵陣の真っ只中で一縷の希望を見出し、囚われの張が歓喜する。
 「森サン!?森サンそこいますか森サン、大変張ピンチね、おかない人に捕まって痛イ痛イね、ハイヤーとばして早く助けきて!!」
 勇んで身を乗り出し噛みつかんばかりに喚く、救援を請う。
 会話の内容を聞こうと千里と共に携帯に耳を近づける。
 「………森サン?もしもし、森サ」
 『今忙しい。あとにしろ』
 一拍おいて、ようやく返って来たのは底知れぬ凄みを含む低い声。
 人を脅しなれた人間特有の、静かで剣呑な声色。
 これが森。黒幕。張たちに犯行を指示した人間。
 声だけでも十分すぎるほど伝わる威圧感に、ごくりと唾を飲む。
 携帯のむこうからかすかにテレビの音が響く。
 「できない無茶ゆなよ、今張大ピンチね、命仏前の東芝」
 『風前のともし火か。結構な事だ。中国人でも死にゃあ仏になるのか』
 携帯をひったくり罵声を上げたい衝動を辛うじて堪え、続きに集中力を注ぐ。
 張は既に半泣きの状態で、後ろ手縛られた不自由な体勢のまま前へ前へと這いずって、俺が翳す携帯に憤懣やるかたなく唾をとばす。
 「例の件で仕掛けに行たよ盗聴器、そしたら待ち伏せしてたよ、まんまと一杯食わされたね、聞いてないあるよ!黄と毛は先に逃げくさたある、張ひとりおいてけぼり、綿棒痛イ痛イヨ、早く助けくるよろし森サン!!」
 『つかまるような間抜けに用はねえ』
 無慈悲につっぱねられ、絶句。
 一縷の望みを絶たれた張が愕然と顎を落とし、ついで中国語でヒステリックに叫びだすのを制し、千里が代わる。
 「もしもし、はじめまして」
 『だれだあんた』
 「久住宏澄のナイトです」
 「誰がナイトだ」
 条件反射で突っ込む。
 俺の手から奪った携帯を掲げ持ち、自分を見捨てた仲間と裏切った男に口汚く呪詛吐く張を愉快げに見下ろし、唄うような抑揚で言う。
 「彼の身柄はこちらが押さえてます。虐めて吐かせてもいいんですけど、なんだかホント下っ端ぽいし。上の人に聞いたほうが早いかなって」
 『どうして盗聴がわかった?』
 「経験者ですから、そりゃあわかりますよ。……前と手口変わってないし、あの人ならそれくらいやるだろうっておもった」
 あの人?
 いぶかしむ俺をよそに、携帯を持ち壁にもたれ部屋の中をざっと見回す。
 「悪いけど引っかけさせてもらいました。盗聴器にも受信有効範囲がある、ある程度距離がはなれてしまうと電波状態が悪くなる。コンセントに偽装して仕掛けるタイプの盗聴器ならどんなに性能よくても5キロ圏内が限界、よって絶対近くで張ってる。たぶんバンかなんかに機材を持ち込んで張り込んでたんだ」
 『回収に来たところを一網打尽か』
 「近場なら証拠隠滅に来るでしょう」
 『……鋭いな』
 「どうも。何が目的ですか」
 『さあな。そいつは本人しか知らない。こっちはコネで請け負っただけだ』
 携帯の向こうでテレビの音が大きくなる。
 アニメを流してるらしく、声優特有の甘ったるく甲高い作り声が決め台詞を吐く。
 「………暴力団の方ですか」
 『懐かしい呼び名だな』
 否定しない。ということは、千里が今話してるのは、ヤクザか。
 「ちょっと待て、なんで俺がヤクザにロックオンされるんだよ」
 「あなたは黒幕と実行犯を仲介した。ヤクザなら裏社会に顔が利くし、ピッキング前科をもつ中国人をひきこむのもわけない」
 『もっと使える連中だと踏んだんだがな……見込み違いだった。煮るなり焼くなり好きにしろ』
 相手が喉の奥で低く笑う。背筋がおぞけだつような陰惨で残酷な笑い。
 「……あの人は何を企んでるんですか」
 「どういうことだよ千里、あの人ってだれだ、知り合いか?なんで俺がお前の知り合いにストーキングされてんだよ」
 「静かにしてください、聞こえない」
 「張見捨てるナラ秘密暴露するヨ!!」
 携帯を巡り争う俺と千里の間に首を突っ込み、張が吠えるやいなや、携帯のむこうで空気が凍りつきひびが入る。
 「聞いてるアルか森サン、張助けないとあの事バラすよ、森サン株大暴落よ!?わかたら早く助けくるよろし、張ただでは死なないよ、中国人なめるいくない、東京湾に沈む前に森サンの秘密イーピン浣腸ね!!」
 「一筆啓上……?」 
 「それよ!!」
 見捨てられてなるものかと食い下がる張の剣幕に気圧される。
 携帯のむこうに怒りと苦悩を孕んだ重い重い沈黙が漂い、永遠に続くかと思われたそれがため息で破られ、森が決断をくだす。
 『………そいつを返してもらう』
 「交換条件ですか」 
 『路上に素っ裸で放り出しておけば拾いにいく』
 「まだ質問に答えてもらってませんよ」
 『あいつの考えてることなんざ知るわけないだろう。せいぜい身のまわりに気をつけるんだな』
 「あの人は……いつ、動くつもりですか」
 『さあな。近いうちだろう。盗聴器を仕掛けたのはもののついでだと笑いながらほざいていた。あいつのやることはぜんぶ悪ふざけだよ』
 「……知ってます。そういう人ですから」
 『なら話は早い。……ナイトなんだろう?せいぜい守ってやれ』
 森が鼻で笑う。
 再び張に携帯をつきつければ、現金の一言に尽きる変わり身の早さで迎えを表明した恩人へ感謝とヨイショを延べ立てる。
 「信じてたよ森サン、日本のヤクザ情に厚く義を重んじるね、同胞見捨てたりしないある!」
 顔くしゃくしゃで咽び泣く張の前に携帯をおき、千里が苛立たしげに爪を噛む。
 「………千里……」
 「………単独行動はオフでも控えてください。買い物とか、外出の用があったらぼくに連絡してください。すぐ飛んでいきますんで」
 「待てよ、ひとりで勝手に話進めんなよ。どうして俺が狙われてんだよ、金もねえのに……俺なんか盗聴したところで相手に何の得が」
 「損得の問題じゃない。暇潰しなんだ、あの人にとっては」  
 千里は犯人を知っている。だが聞けない。聞いてはいけない気がした。
 千里の横顔は固く強張って詮索を拒み、その表情は妙に上の空で、神経質に爪を噛むしぐさが不安を誘う。
 「~~~っ!!」
 やり場のない苛立ちに髪かきむしり、プラスチックの基板が取り外されたコンセントを睨みつけ、つかつか歩み寄る。
 壁の隅に設けられたコンセントは中国人どもが作業を中断し逃げ出した為分解されたまま、複雑に絡み合った配線剥き出しの裏側の空洞を晒していた。
 矩形の空洞に手を突っ込み、絡まりあったコードを掻き分けてさぐるうちに違和感を感じとり、巧妙に隠れた異物をひっこぬく。
 盗聴器。
 全力で床に叩きつけ踏みにじる。
 床に激突するや弾けて壊れた盗聴器が完全に使い物にならなくなるまで、あらん限りの怒り憎しみ込めて踏みにじりつつ喝を飛ばす。
 「おい、聞いてっか千里の変態仲間。勝手に人んち上がりこんで悪趣味な真似しやがって、ふざけんな。トイレで水流す音聞けて満足か、いびきや寝言聞けて楽しかったか、ベッドの角に足の小指ぶつけて悶絶する声聞けて愉快だったか?若い女の一人暮らしならともかくむさ苦しい男の部屋盗聴して何が楽しい、意味不明、理解できねえ、そうだいいこと思いついた、盗聴なんてまだるっこしい真似せず直接家こいよ、正々堂々受けて立つ!」
 「先輩!?」
 「聞こえてんだろ変態野郎、手の届かないところで調子こいてにやにやしてんじゃねえ、言いたいことがあんなら直接言え、下っ端使って自分は高見の見物なんざ腰抜けの証拠だ、どうせぶん殴られんのが怖くて出てこれないんだろ、こそこそ逃げ回ってねーでつら出せ卑怯者!!」
 既に原形をとどめぬ段階まで破壊した盗聴器を、なおも執拗に蹴飛ばし踏みつけ挑発する俺の肩を千里が掴んで制すや、激烈な怒りが爆ぜる。
 「さわんな!!」
 振り向きざま肩に乗る手を苛烈に払う。
 短慮を悔いるより早く、千里の顔から表情が消失。俺に拒絶され、呆然と立ち尽くす。
 「………泊まるって、こういうことかよ。盗聴器の様子見に来たのか」
 「ちがう、」
 「そいつとグルなのか」
 「誤解です」
 「帰れ」
 「先輩、」
 「帰れよ。顔も見たくねえ」
 背中を向けたまま、手の甲を激しく振って追い立てる。
 しばらく経ち、ひきずるような足音が遠ざかっていく。胸中にこみ上げる苦いものを噛み潰し、玄関のドアを開け、出ようとする千里に言う。
 「忘れ物」
 「物じゃない人よ!?」
 「うるせえ」
 さも心外そうに反論する張の後ろ襟を掴み、玄関まで引きずっていって、顔も見ず千里に手渡す。
 「……失礼します」
 「失礼ねお前、張物扱いするな、もー怒た、今度お前の部屋上がる時靴脱がないよどろどろよ!」
 「次はねえ」
 目を吊り上げ怒り狂う張を突き放し、千里が廊下に出るのを見計らい、乱暴にドアを閉じる。
 ドアが閉まる間際、名残惜しげに振り返った千里と目が合う。
 何か言いたげにその唇が動くも結局音は伴わず、発せられたかもしれない言葉は、ドアが閉じる轟音にかき消された。
 

 この時、ちゃんと話を聞いてやればよかったと。
 俺は、あとで死ぬほど後悔することになる。

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リーマン×リーマン | コメント(-) | 20010419230028 | 編集
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