ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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脅迫するものはされるもの 1

 「わっ、千里くんなにやってんの!コピーすんの十部だよ、多すぎだって!」
 「あー床にまであふれだしちゃって大変……」
 「アマゾンで伐採された雨林に謝れ、土下座の勢いで!」
 「どうしてこんな事に……」
 「え、十部と千部聞き間違えて!?」
 「豪快だなあ、桁がふたつちがうぞ」
 「呑気に話してないで早く中止して、それかヤギ連れてきて!」
 ガーガー唸りながらコピー機が大量の紙を吐き出す。
 まわりにたむろう女子社員どもが黄色い悲鳴をあげ、男が後始末に奔走する。
 あふれ出した用紙が床に溜まり、同僚があっちこっちへ駆け回るごとばさばさと慌ただしく蹴散らされ広範囲に散らばる惨状を呈す。
 用紙を量産するコピー機の前に立ち尽くす千里は心ここにあらず、フォローに駆けずり回る同僚の怒号と悲鳴、阿鼻叫喚の渦の中ぼんやりしている。
 完璧上の空。
 「なあ、最近あいつ変じゃねえか?」
 突如話しかけられ、ちらちら千里を観察していた目を向ける。
 近くのデスクに座る同僚の羽鳥が、椅子の背凭れに腕をかけ覗きこんでいた。
 羽鳥は俺の同期で比較的よく話す。たまに飲みに行く。
 眉間の皺と怖い顔と神経質な性格のせいで敬遠されがちな俺も、ざっくばらんな羽鳥とは気兼ねなく話せる。子煩悩な愛妻家で二児の父親。デキ婚したカミさんには今でも頭が上がらないとしばしば惚気ている。
 その羽鳥が福々しく肥満した顔に怪訝な表情を浮かべ、コピー機の前に立つ千里をうかがう。
 動揺を隠し平静を装う。
 眼鏡のフレームに触れつつ、なにかと口実をもうけてはサボりたがるぐうたらな同僚を見返す。
 「変て、千里がか」
 「それ以外だれがいるんだよ。この頃失敗続きだし、心ここにあらずって感じで……悩み事でもあんのかな?十部を千部に聞き間違えるとかありえねーし、昨日なんか大事な試供品忘れてくるし、おかげで一緒に外回りに出かけた俺もしぼられて参った参った。あ、娘の写真見る?自転車の補助輪とる特訓中なの」
 「たしかにあいつらしくねえな……仕事デキるのに」
 「そうそう、あいつああ見えて仕事はすっげえしっかりしてるっしょ?いつもは逆に俺のがフォローされてんだけど、この頃全然。まわりが見えてないってか、違う事で頭が一杯の感じで、試供品の件じゃ課長に大目玉食らってるし」
 「まあ、今までが凄すぎたんだ。入社一年足らずの新人なんだからミスだってするだろうさ」
 「へえー」
 「なんだよ」
 無視された免許証入れ(娘の写真入り)を引っこめ、にやつく羽鳥を不機嫌に睨みつける。
 「庇うんだ?優しいね、お前。最近千里と一緒に行動してるけど、仲良くなったか?」
 「ねえよ。犬猿の仲だよ」
 「前はもっとピリピリカリカリつんけんしてたのにさあ、最近あんま怒鳴りつけなくなったな、千里のこと。感じ変わった」
 「俺が?」
 「角がとれたってか、険がとれたってか……人当たりソフトになった?前はもっと余裕なくて神経質で近寄りがたい感じだった、半径1メートル内に寄る者は目で殺すみたいな殺気が漲って。千里にも露骨にきつく当たってたんじゃんか」
 「ああいういつもへらへらして要領いいやつ嫌いなんだよ。女にモテるし」
 「寝取られ男の僻み?」
 「うるせえ」
 「千里お前に懐いてるし、それとなく注意してやれ」
 警告ともとれる台詞に眉をひそめる。
 羽鳥は背凭れに腕をかけたまま、漸く現実に引き戻された千里が、用紙拾いを手伝う同僚に謝罪する光景を目を細めて見詰め、呟く。
 「あいつさ、案外一人で抱え込むタイプかも。周囲が気付いた時には手遅れになってる。時々いるじゃんそういうの、完璧に見えて中身は意外とモロい。一押し一突きですぅぐ崩れる。職場じゃお前が一番近くにいるっぽいし、気を付けてやれ」
 「あぁん?なんで俺が仕事以外の面倒みなきゃいけねーんだよ、やなこった。成人してんだから自分のケツくらいてめえで拭きやがれってんだ」
 憤然と吐き捨て仕事に戻るもやはり気にかかり、どうしても千里に目が行っちまう。
 椅子を軋ませ机にもどる俺と千里を見比べ、羽鳥は嘆かわしげに首を振り、一旦は引っ込めた免許証入れをいそいそと取り出す。
 「で、娘と息子の写真。あひるさんのおもちゃ買ってやったらはしゃぎまくってさ、真っ裸できゃあきゃあ騒ぎまくって、風呂場で」
 「ガキの裸に興味ねえ」
 というか、風呂場にカメラを持ち込むな。父親が変質者なんて、俺が娘だったらお嫁にいけねえ。
 でれでれだらしなくにやける親ばかをそっけなくあしらいつつ、パソコンのキーを打つ。
 千里の様子が変だ。
 羽鳥に指摘されるまでもなく、もちろん異変に気付いていた。
 千里の様子がおかしくなり始めたのはちょうど一週間前で、それまで殆どミスなどおかさず人の分までフォローして完璧に仕事をこなしてたのが一気に破綻した。
 何があったか聞けない。
 千里は話さないし、俺からも突っ込めない。もし俺が「何があったんだ?」「悩みでもあるのか?」と聞いたら千里のことだ「心配してくれるんですか?」とかなんとか例のくそむかつく笑顔でのたまうに決まっていて、想像だけで憤死しそうだ。
 心配してると勘違いされんのは不愉快だし、千里なんてどうなろうが知ったこっちゃねえし、脅迫されてる俺からしてみりゃ千里がどうにかなってくれたほうがありがたい。
 よって心配する理由がさっぱりねえ。千里の不幸は喜ぶべきもので、最近は大人しいから俺も助かっていて、邪魔が入らず仕事は順調で、このままずっと大人しくしてくれたら大助かりで……
 キーを叩き会議に使う資料を作成しつつ、同僚と手分けして用紙を拾う千里を横目でうかがう。
 「はい、これ」
 「すいません、手伝ってもらっちゃって。忙しいのに」
 「いいの、気にしないで。千里くんだってたまには失敗するよね」
 「ドジっ子属性萌えるし」
 「ドンマイ」
 束ねた資料を渡す女子に口々に励まされ、弱々しく笑み返す。
 ささやかなミスなどたちまち許しちまいたくなるシャイなベビーフェイス。
 「ニューカマーブルーじゃないか」
 聞き慣れない単語に振り向けば、独身の同僚がふたり、女子がちやほやする千里をひがみっぽく盗み見ていた。
 「入社一年足らずの新人にありがちな無気力症候群。ようやく仕事に慣れてきて息つく暇ができて、そこでふとああ、このままでいいのかなって我に返る」
 「今の仕事を続けていいのか、これが本当に自分のしたかった仕事なのか、他に選択肢があるんじゃないか」
 「辞めちまうヤツもいるらしいぜ」
 「モラトリアムだよなー」
 自主退職。
 まさか、千里に限ってそんなと笑い飛ばそうとして、微妙に顔が強張る。
 女子社員から用紙の束を受け取った千里と目が合えば軽い会釈が返る。なんだか他人行儀だ。
 いつもの千里ならにっこり笑う、同僚の肩越しにいやがらせの極上スマイルを送ってきやがる。
 「………らしくねえ」
 舌を打つ。いらだつ。煮え切らねえ本音が口をつく。
 言いたい事があるならはっきり言えと、大声で罵倒したい衝動をおさえこむ。
 俺の目をまっすぐ見ない理由。俺を強姦して、強姦した相手にさえ外道に振る舞っていたくせに、急にしおらしくなんのは嘘くさいし胡散くせえ。
 この一週間というもの、千里は俺を避けている。前のようにつきまとわなくなった。
 最初は誘いを蹴ったからあてつけで拗ねてやがんのかと邪推したが、いつまでたっても復調せず、本格的におかしいと疑いを抱き始めた。
 いらつく。腹が立つ。
 むっつり口元を引き結び、猛烈な速度でタイピングしつつ心の中で毒を吐く。
 千里なんてどうでもいい、不幸になっちまえ、辞めちまえ。
 俺を強姦し脅迫し続ける極悪人、あいつがいなくなりゃせいせいする、落ち込んでいい気味だ、ざまあみやがれ。
 一方で、むかむかする。胃がしこる。
 あいつが笑わなくなって、俺の目を見なくなって、うるさくつきまとわなくなって。
 せいせいしたはずなのに。
 『ごめんなさい、先輩』
 か細い声で謝罪し、途方に暮れた迷子のように、俺の袖口をぎゅっと掴む。
 マンションの廊下に俯き加減に立ち尽くす千里の、今にも泣きそうな情けない顔を思い出し、胸が痛む。

 『熱あるから冷まさなきゃって』
 『アイス、どれがいいかわかんなくて、目についたの片っ端から買ってきたんですけど。……多すぎちゃったかな』

 千里の行動は馬鹿で矛盾してる。
 好きと言いながら犯す、ごめんと詫びながら嬲る、支配し束縛し蹂躙する。
 支配と被支配、加害者と被害者。
 俺が抱いてるのはもちろん恋愛感情なんかじゃなくて。
 俺は当たり前に女が好きで、千里は男で、後輩で、俺を強姦した憎い相手で、好きになる要素がこれっぽっちも見当たらねえ。
 俺は千里が大嫌いだし、これからだって、好きになるわけねえ。
 嫌悪と憎悪と面倒くささとが混じり合った複雑な感情が、しかし、最近微妙に変わり始めている。
 風邪がひいた日にどっちゃりアイス買い込んで見舞いにきた。
 痴漢から助けてくれた。
 ごめんなさいと詫びる声、すがるような顔。

 見放せない。
 見捨てられない。

 「千里!」
 名前を呼び、平手でデスクを叩いて席を立つ。
 話し声が途切れ、静まり返った職場に電話の音や機械の稼動音が響く。
 同僚の視線を浴びながら眼鏡のブリッジを押し上げ、ゆっくりと向き直り、険悪にぎらつく目で睨みつける。
 「……外回り行くぞ。来い」
 机に手をつき顎をしゃくれば、頼りない顔で俺を見る。
 「はい」
 逡巡し、だいぶ遅れて返事をする。
 廊下に出た俺に遅れ、クリアファイルに入れた資料を抱いてやってくる。
 暗く沈んだ横顔、憂鬱そうな足取り。
 俺の隣を歩くときはいつも笑っていたのにと、苦々しく思う。
 千里は素直に従う。黙りこくってついてくる。
 前はうるさくしゃべりかけてきたのに、俺がどんだけ嫌な顔してもお構いなしに、犬のようにしっぽを振って……
 人の都合も考えず懐いてきて。
 互いに押し黙り、エレベーターで一階ロビーに下りる。
 ガラス張りの正面玄関から昼の光が入り床を磨く。一階から六階まで吹き抜けのロビーは採光に適した構造で、印象がとても清潔で明るい。
 見栄え良い観葉植物が配されたロビーを会社の人間や業者の人間が行きかう。
 隣り合う千里は意識しないよう努め、外回りのスケジュールをさらう。
 「一番目は福田商事、そのあとは仙波さんとこ。今の時間は道路混んでるから歩きでいいか、大して距離ねえし。試供品見せてくれって言われてたんだ、とりあえずお試し期間ってことで……やり手だよなあ仙波さん、交渉スキル見習いたいぜ。長く現場にいて出世は遅かったって話だけど、そのぶん経験から学んでるんだろうな」
 「そうですね……」
 外回り先の担当の話題に曖昧な相槌を打つ。
 目を開けながら眠ってるような反応の鈍さに疑問と苛立ちを抱く。
 ロビーを突っ切る途中、モップで床を擦ってる掃除のおばちゃんに会った。
 「こんにちは」
 「あら久住さん、こんにちは。これから外回り?暑いから気を付けてね」
 「あんがと。おばちゃんもな。腰大事に」
 「やあね、年寄り扱いしないでよ」
 掃除のおばちゃんと挨拶を交わし、キレイどころがしゃなりと座る受付を通り、回転ドアから外へ出る。
 メタリックな高層ビルが競い立つオフィス街は、友達と早めのランチに行く事務のОLや、俺たちと同じ外回りに出かける営業とで賑わっていた。 
 「あちっ!」
 「気温、二十五度まで行きそうだってニュースでやってました」
 回転ドアを抜けると同時に、反射的に腕を掲げ陽射しを遮る。千里が呟く。
 どうにも会話が弾まない。調子が狂う。掲げた手を首元にやり、ネクタイを緩める。
 「………どうしかしたのか、最近」
 「別に。普通ですよ」
 嘘つけ。
 千里はあくまでとぼけるつもりか、「そっか」とひとりごつ。
 「最近ご無沙汰でしたもんね。ぼくに遊んでもらえなくて拗ねてます?」
 「なんでそうなるんだよ」
 「このままホテル行きますか」
 「おい」
 「冗談です。さ、早く済ませちゃいましょう」
 先に立って歩き出し、軽やかに促す。
 どんなに陽気なふりをしても、快活を演じても、やつれた横顔に憔悴の翳りが濃く漂う。
 辛気臭く押し黙って考え事をしてたかと思えば、俺の気遣いを察し、今度は無理に明るいふりをする。
 不器用なやつだ。どうしようもなく。
 千里と並んで歩きつつ自分の心を整理する。
 千里が大嫌いだ、軽蔑してる、憎んでるとさえ言っていいだろう。
 でも、こいつが気になるのも事実なわけで。
 羽鳥のアドバイスを真に受けたわけじゃないが、こいつが落ち込んでると、つい口を挟みたくなっちまう。
 「最近大人しいな。改心したのか?俺の写メも消しとけよ」
 「消しません」
 「即答かよ!?そんなこったろうと思ったさ。キャラ変わりすぎで気味悪ィよ、お前。全然笑わなくなったし」
 「笑ってますよ、ちゃんと」
 「あれは笑ってるって言わねえ、無理してるって言うんだよ」
 驚き、はっとして俺を見る。
 夢から覚めたように目を見開く。雑踏のど真ん中で立ち竦む。
 核心を突かれ、軽薄な笑みがか消えて、動揺の波紋が広がる。
 「………わかるんだ、先輩。鋭いな」
 「先輩だしな、一応。後輩の様子がおかしいの位わかるさ。……お前とはその、不本意だけどああなっちまったし。で、原因はなんだ」
 「個人的な話です。関係ありません」
 関係ないと断言され、自分でも戸惑うほど強く動揺し、反発に似た怒りが湧く。
 「お前がミスしたら後始末すんの俺だ、関係あるだろうが。早いとこ元通りになってくれなきゃ困るんだよ」 
 「うざいです。耳元で喚かないでください、鼓膜が破れ……」
 戦慄が走る。
 「千里?」
 ちょうど青信号になり、俺たちが今しも渡ろうとした交差点のど真ん中で、男がふたり激しく言い争っている。
 「お待ちください有里さま、どうかご自重を」
 「うるさい椎名、命令するな。弟に会いに行ってなにが悪い?」
 「今はお仕事中です、バンリさまだけじゃなく会社の皆様にもご迷惑かかります」
 「立場が悪くなるのを心配してやってるのか?一度は見捨てたくせに善人を気取るなよ」
 「それは……」
 「弟の仕事ぶりを実地で観察するのも兄の義務だろう?あいつがどれだけ人の役に立ってるか、楽しみだ」
 ユウリと呼ばれた男は若い。推定二十代後半。
 ホストのように上等な白いスーツに俳優のように彫り深く華やかな顔立ちが映える。
 秀でた鼻梁と薄く整った口元、脚光を浴びなれた秀麗な容貌は、灰や黒など無個性なスーツ姿が多いオフィス街で一際目をひく。
 目立つ容姿に洗練された享楽の香りを纏う、どこか堕落した感じのする男だ。
 対になるのは灰色のサングラスをかけた禁欲的な風貌の男で、交差点を渡りこちらへ来ようとするユウリの行く手に立ち塞がり、必死に制す。
 交差点のど真ん中、信号が点滅しもうすぐ赤になろうというのに、争いやめぬふたりを通行人が迷惑そうに一瞥していく。
 忠言の甲斐なく傲然と我が道を行く男に、サングラスが苦渋の面持ちで叫ぶ。
 「あまりにご勝手がすぎると、お父様に報告なさいますよ」
 甲高く乾いた音が爆ぜる。
 通行人と交差点の両岸の人間の視線が、一斉に集中する。
 点滅の間隔が次第に狭まりゆく交差点のど真ん中、振り返った男が、サングラスを平手で殴ったのだ。
 「今のは命令か。俺を脅すのか」 
 「…………申し訳ありません」
 「身の程をしれ」
 「どうか今回はお気をしずめください」
 サングラスが恭しく頭を下げる。俯き加減の表情は窺い知れない。
 成人した男が、成人した男に平手打ちをくれた。白昼、交差点のど真ん中で。
 大勢の通行人がその現場を目撃した。
 「!千里っ」
 鋭く叫び、あとを追う。
 突如交差点に背を向け走り出し、ビルとビルの谷間の細い路地に駆けこむ。
 「急にどうしたんだよ、走り出して……駅はそっちじゃ」
 文句をひっこめる。千里はビルの壁に背中を預け、口元を押さえ、力なくずりおちる。青ざめた顔、かすかに震える体。
 様子がおかしい。悪寒に堪えるように顔を伏せる、こみ上げる吐き気に口を塞ぐ、絶望的な顔でじっと地面を見詰める。
 「知り合いなのか。バンリって呼んでたな、さっき」
 平手打ちの瞬間が鮮烈に脳裏に浮かぶ。
 怯える千里に慎重に歩み寄り、その肩に手をかけ、落ち着かせようと軽く叩く。
 「………いえ。知らない人です」
 嘘だと直感する。
 弱々しい首振りで否定を示し、口から手を放した千里が、深呼吸する。
 「一体どうしたんだよお前、しっかりしろよ、最近おかしいぞ。皆心配してる、俺も……迷惑してる。ミスばっかだし、ぼーっとしてるし、会社でも一日中上の空じゃねえか。そんなんなら辞めちまえ、真面目にやってる人間に失礼だ」
 違う、こんな事を言いたいんじゃない、ただの憎まれ口じゃねえか。
 壁に凭れて深呼吸する千里に憤然と詰め寄る、肩を掴み語気荒く抗議する。
 俺のお説教を、千里はしおたれて聞いていたが、ふいに顔を上げるやその手がこっちに伸びる。
 逆に肩を掴まれ動揺する。
 俺の肩を両手で掴み、腕一杯突き放すようにして向き合い、決断。
 「お願いがあります。今日、先輩のマンションに泊めてください」
 「はあ!?」
 思わずまじまじと顔を見返す。断固たる意志を感じさせる眼差しにたじろぐ。
 縋るような、どこか切実に思い詰めた目で俺を見詰め、肩を掴む手に力をこめ千里が言う。
 「帰りたくないんです」  
 それは女が言う台詞だろうと突っ込みつつ、笑えない気迫に飲まれ、俺は頷いていた。

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