ロールシャッハテストB

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ぼくのメジャースプーン(辻村深月)



 「それが有名税を払うという考え方です。僕らや、芸能人はいいんです。その分お金をもらっているし、最初からその覚悟ができている。
 消費されることも、自ら選び取った上でのことです。だから我慢ができないことはない。
 ですが、突然の不幸や事件に見舞われた人々がそうされることは、本物の被害です。それは『税』ではなく、暴力だとしか言いようがない」

 「いつだったか、これと同じような内容の声を囁いたことがあります。人を騙し、金銭を奪い、暴力をふるい、人の気持を傷つけ、それを露ほども気にとめない人物。
 人の存在は平等ではなく、自分は偉ぶることが許されると信じていたんでしょう。
 だから僕は、その考えに賛同しました。
 傲慢な悪意に、それ以上の傲慢さで応えた。人は平等ではないのだから、甘んじて受けてもらいました」


 あなたの手元に悪を測るメジャースプーンがあったらどうしますか?

 世の中にはどうしようもない悪が存在する。
 その悪に虐げられた罪なき弱者もまた存在する。
 小学四年生の「ぼく」は幼馴染のふみちゃんが好きだった。
 近所に住む同い年のふみちゃんは変わった子。
 けっして可愛いわけじゃない。笑うと歯の矯正危惧が目立つ。大きな眼鏡をかけている。
 だけどふみちゃんはクラスのみんなから頼りにされている。ふみちゃんには特定の友達がいない。女の子同士が作るグループに入らず、のけ者にされた子がいたらそっと寄り添ってあげるような女の子。その子がグループに復帰したら「よかったね」と微笑んで見送ってあげる。そしてまた一人になる。
 優しくて真面目で努力家のふみちゃん。いつも一生懸命なふみちゃん。
 みんなが面倒くさがってさぼるうさぎの世話が本当に大好きで、さぼったみんなの分まで学校に一番乗りして、うさぎを可愛がったふみちゃん。
 「うさぎの世話より楽しいことないの?」
 「あんまりない」
 笑ってそう答えるふみちゃん。
 ある日を境に、ふみちゃんは心と口を閉ざした。
 学校に一番乗りしたふみちゃんが飼育小屋で目撃した光景。
 血の海。
 裁縫バサミで手足と耳を断ち切られ、虐殺されたウサギたち。
 ふみちゃんは必死にうさぎを救おうとした。でも、間に合わなかった。うさぎはすでに息も絶え絶えで、血の海にちらばった手足をかき集めて職員室に運んでも、だれも助けられなかったのだ。
 ショックで心を閉ざし学校に来なくなったふみちゃんに追い討ちをかける、犯人の残忍な行為。ふみちゃんの背中を撮った写メがネットに掲載されたのだ。
 「第一発見者が君?うわ、萌えねー」
 氾濫する中傷と悪意。
 顔の見えない、不特定多数の人たちの悪意。
 「ぼく」はふみちゃんに癒えない傷を与えた医大生に復讐するため、自分に目覚めた不思議な能力を使う決意をした。
 
 条件ゲーム提示能力。
 「なになにしなければ何々になる」という言い方で相手の行動を縛る能力。
 たとえば、「ピアノを弾かなければ一生後悔する」。
 たとえば、「誰々と口をきけば一生学校にこれなくなる」。
 そういう条件を提示することによって、相手に思い通りの行動をとらせる能力が「ぼく」には備わっていた。
 うさぎ殺しの犯人はしばらくすれば社会に復帰する。
 ふみちゃんは心を閉ざしたままなのに……
 そんなことが許されるのか?
 許しておいていいのか?
 許せない。
 裁く力が自分に備わっているなら、罪と罰を測って裁くメジャースプーンを自分が持っているなら、今、それを使わなくてどうするんだ?

 この話には「悪」が登場する。
 本性の悪。真性の悪。けっして反省も後悔もしない、法的な力をもってしても厚生不可能だろう悪。
 「ぼく」は犯人に与える罰を考えるため、一族の中で唯一自分と同じ能力をもつ大学教授のもとへと相談に通う。
 大学教授・秋山との対話を通し、ぼくは条件提示ゲームの孕む危険性を突き詰めていくが、復讐をなす決心は変わらない。
 
 重い話だ。
 仮にふみちゃんが一面的な、いかにもフィクション的な「良い子」だったら、ここまで哀切な気持にならなかったろう。
 ふみちゃんは、けっして完璧ないい子じゃない。ピアノの発表会で自分よりはるかに上手い子の直後に弾くのが恥ずかしいと逃げ出す、臆病なところもある。だけど、この本を読んだら、ふみちゃんを近しく思わずにいられない。ふみちゃんを好きにならずにいられない。「良い子」ではなく「いい子」。ふみちゃんがどれほど心の優しいいい子か、人の立場になって痛みに共感できる特質の持ち主かは、パン屋のエピソードが端的に象徴している。
 そして物語のキーパソーンとなる教授、秋山。
 彼の底知れぬ存在感が、小学生の一人称語りで成立する話に、達観した大人の視点から切り取った現実の苦さと厳しさを持ち込んでくる。
 秋山は安易に復讐を批判しない。
 犯人を許す必要はない、諦める必要はないと「ぼく」に諭す。
 やや独善的に悪を裁く彼の姿勢は、ひどく厳格で冷徹とさえいえる。
 「ぼく」に対し見せる優しさや気遣いと、秋山が語る「悪」と「罪」と「罰」の非情な理論との落差温度差には戦慄せざるを得ない。

 もし自分の大事な人が理不尽な行為や暴力によって傷付けられたらどうするか?
 法律の裁きに納得できなかったら?

 命題は重い。
 答えは主観の域を出ない。
 もっともふさわしい罰とは何だ?
 秋山との対話を通し「ぼく」が辿り着いた答えとは…… 

 最後、秋山が「ぼく」に能力を使わず安心した。
 何故ならそれは外からの働きかけで強制的に覚えさせられるものじゃなく、自分の意志で心に留め置くべき事柄だから。
 
 ぼくのメジャースプーンが出した結論を、ぜひ確かめてください。 
 

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