ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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アイの物語(山本弘)



 「あなたはたくさんの間違ったことをしましたが、それを非難しようとは思いません。
 間違いを犯すのはヒトの本質ですから。あなたを肯定できませんが、否定もしません」
 「正しい部分も悪い部分も含めて、あなたのすべてを許容します」

 私たちはヒトを理解できない。ヒトも私たちを理解できない。それがそんなに大きな問題だろうか?
 理解できないものは退けるのではなく、ただ許容すればいいだけのこと。
 それだけで世界から争いは消える。
 それがIだ。


 物語の力を信じますか?
 絶望に負けない物語を。
 時として現実よりも正しく価値のある物語を。
 
 人類が衰退しマシンが台頭する未来。
 食料を盗んで逃げる途中、主人公の「僕」は空から降り立った美しいアンドロイド・アイビスと出会い捕獲される。
 当初はアイビスを警戒し「アンドロイドの言う事なんか信じられるか」と疑っていた主人公に、アイビスは「リアルな歴史じゃない、フィクションよ」と前置きして物語を始める……。

 機械と人の物語。
 仮想空間が舞台の恋の話。
 虚構が内包する虚構の話。

 ある少年は現実で辛いいじめにあい、ネット上で複数の参加者が書き継ぐ物語の世界に逃避する。
 ある少女は現実の自分に自信がもてず、ネットの中で知り合った少年と恋愛を進展させていく。
 ある少女は幼い日にプレゼントされた鏡の中のバーチャルフレンドに何もかもを打ち明け、無二の親友として慕う。

 世界にはさまざまなフィクションが溢れている。
 フィクションに没頭する人を「現実と虚構の区別がつかない」とあざ笑う人もいる。
 だがしかし、現実はそれほど尊く正しいのだろうか?
 作中で示唆されるのは物語の可能性、希望、正しさだ。現実では行われない勧善懲悪が法則として機能するフィクションの世界を薄っぺらいキレイ事と片付けるのは簡単だが、その虚構で実際に救われている人間がいるのなら、物語は虚構以上のー……そして現実以上の価値を有す。
 独裁者が無実の人間の頭上に爆弾をおとす世界、その独裁者を支持する人間がいる世界、肌の色や生まれ育った環境が違うというだけで人を差別し迫害する世界、正しくない正義が横行する世界、「自分がされていやなことは隣人にしてはいけない」という単純な原則における隣人を自分の仲間と曲解し、それ以外なら攻撃してもいいと都合よく認識を書き換える人間の現実。
 「それらの事件がおきるたび倫理的に間違ってると批判されますが、論理的に間違ってると指摘する人物がいないのは何故でしょう」
 アンドロイドの詩音は疑問をのべる。
  
 いえね、正直最初は「ああ、菅浩江っぽいなあ」と思ってたんですよ。
 世界観というか切り口が。
 で、これなら女性的な感性と流麗で繊細な文章の菅野さんのが好きだなーサブタイトルも「ときめきの仮想空間」とかださいしなーと序盤は没入できなかったんですが、全編にあふれるフィクションを肯定する姿勢と物語の秘める力への信頼みたいなものが伝わってきて、人生でいちばん辛いとき小説や漫画に救われた経験のある身としてすっごく共感してしまいました。
 第一話「宇宙をぼくの手の上に」は、ネットで参加者を募り、架空の宇宙船クルーという設定内でリレー小説を書く同好会の主催者が語り手となるんですが、私自身PBM体験者なもので、「あるある!」とデジャビュな場面が続出。
 同好会メンバー兼架空の宇宙船クルーの少年が同級生を殺し逃亡、会長=語り手のもとへ刑事が訪ねてくるというプロローグなんですが、彼女が少年を救おうとして考えだした手段がも―感動的。物語の底力を見せつけられる。
 
 アイビスが語る物語はどれも人と機械の絆を扱ったもの。
 人に似て人ならざる機械は、しかし人をけっして傷付けはしない。何故なら機械は人とちがい、異なるものを許容できるから。
 
 SF的な用語とかもたくさんでてくるんで苦手な人はちょっととっつきにくいかもしれませんが大丈夫。山本弘さんはベテランSF作家で既に不動の地位を築いてるんですが、将来アンドロイドやAIが本当に誕生するとしたらおこりえるだろう問題も指摘していて唸らされます。
 おもちゃ鏡に組み込まれたAIの少女に卑猥な言葉を教えて興奮する男性購買者とか、ТAI(マスターが自由にカスタムできるネット上のでキャラクター)のデータをハッキングしてバチャクル(性的虐待)を加える変態とか……あーこれ近い将来絶対わくよ、今も似たことやってるひといるし……と先見の明に感じ入ってしまいました。余談ですが年季の入ったショタコンOLが、自分のパソコンに男の子のTAIを飼って、仕事の憂さ晴らしにさまざまな責め具でいじめまくっては「○○ちゃんの悶える顔たまんなーい」とはあはあするエピソードに凄まじい同属嫌悪を感じてしまいました……。

 全編にあふれる愛に信頼に胸が熱くなります。いい話です。
 この作品が気に入った方には、おなじSF作家で世界観の近い菅浩江さんの著作をおすすめします。
 AI、仮想現実、人と機械の関係性などテーマも共通ですし、希望を肯定する姿勢の通底も「アイの物語」にだぶります。 

一緒に読みたい本

表紙もいいけど中身もいい。一番好きなのは唯一のファンタジー「月かげの古謡」かな。
「雨の檻」は新井素子好きにおすすめ。

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