ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

最近のトラックバック
ブロとも申請フォーム
地の果ての獄(山田風太郎)



「おっと、旦那、怒らねえでおくんなさい。あやまる、あやまる」
牢屋小僧は片手をあげてふり、その手をつぶれた左の眼にあてた。
「あやまってる証拠は、ほら、この通りです」
四郎助は、のどの奥で、あっと叫んでいた。

「人が殺すところの者を神は甦らし給う。祈れよ。信ぜよ。父なる神は彼処に在す」


明治19年、薩摩出身の有馬四郎助は北海道月形の樺戸集治監の看守に着任した。
高潔な青年看守が目にする監獄の劣悪な実態、人間の愛憎が綾なす奇奇怪怪な事件の真相とは?
厳正な温情あふれ「愛の典獄」と呼ばれた有馬四郎助の若き日の姿を綴った小説。
 
山田風太郎といえば娯楽時代小説の大家。
近年は「甲賀忍法帖」が「バジリスク」のタイトルで漫画化・アニメ化したことでも記憶に新しい。
私の場合は父が山田風太郎ファンで小学生のころから読んでました。一番最初に読んだのは「伝馬町から今晩は」。子供心に衝撃を受けました。
「地の果ての獄」はその名の通り、明治の北海道に実在した監獄に派遣された青年看守・四郎助の視点で綴る物語。
まず冒頭から凄い。
北海道にむかう船の営倉に糞尿垂れ流しですし詰めにされた囚人らが、待遇改善をもとめ反乱を起こす。
その決起を率いる二巨頭こそ、牢屋で産声を上げ半生の殆どを獄で過ごした通称「牢屋小僧」と、日本一の大泥棒「五寸釘の寅吉」。同船した四郎介の勇敢なる機転により暴動は鎮圧されるも、牢屋小僧のきっぷのいい啖呵、稀代の悪党でありながらどこか憎めない寅吉の演説が心をぐっと掴む。
講談調のテンポ良い文体にのって夢中でページを繰る。
四郎助から見た樺戸集治監は囚人への虐待が横行する劣悪な環境で、不衛生な獄では悪疫がはやり、私刑や鶏姦が黙認され、極寒中の強制労働にたえかね囚人がたびたび命を落とす。
船で暴動をおこした罰として牢屋小僧と寅吉も苦役を課されるんですが、これがまた……絶句する惨さ。当時は囚人の人権なんかなかったんだなと痛感します。詳細は読んでのお楽しみ(?)とうことで省きますが、とにかく凄い。描写が詳細で生々しいから余計目に浮かぶ。
最果ての地の監獄には日本中から札付きの悪党どもが集められる。
しかし囚人より看守のほうが悪辣なのが刑務所ものの王道。
「地の果ての獄」にも囚人よりよっぽどたちが悪い看守がでてくるでてくる。囚人に面会に来る情婦に横恋慕し略奪計画を練る看守、私怨から囚人を虐待する看守などなかなかいい具合にくさりきってる。だからこそ万事につけ公正な四郎助の人物像が際立ちます。 
地の果ての獄で繰り広げられるのは壮絶な人間ドラマ、人生の辛酸を噛み締めずにはいられない愛憎劇の数々。
運命の悪戯としか呼べぬ数奇な縁から監獄送りとなった善人もいれば、生き別れた妻子に一目会いたいと切望する大悪党もいる。
四郎助の赴任直後から監獄では度々不審な事件がおきる。
囚人が有り得ない不可能状況から脱走を図る。横暴な看守が変死を遂げる。
呑んだくれのアイヌ医者、人間の良心を信じ続ける神父。
それら多彩な人物に囲まれ囚人と触れ合ううちに、四郎助の心境にも徐徐に変化が芽生えていく。
なんといっても牢屋小僧がめちゃくちゃかっこいい。ほれます。ここだけの話ぶっちゃけると私が書いてる小説に出てくる某サムライのビジュアルは牢屋小僧のイメージで……っても挿絵はないんですが、私の頭の中に浮かぶ牢屋小僧=サムライなんですよ!
もうね、かっこいい。
野卑で狡猾、過酷な苦役と折檻にもめげず不敵な笑みを浮かべ続ける男。
そこはかとなく不気味な存在感で他を圧倒し、極悪人ぞろいの獄でも一目置かれる隻眼の囚人。

牢屋で生まれたから牢屋小僧。
観察力・洞察力にたけ、扇動の才を持ち、舌先三寸の詐術を駆使し看守と互角に渡り合っていく。

棺桶熊が、御寵愛の十六歳の少年囚をつかまえて一儀に及ぼうとしたのを、
「よさねえか!」
と牢屋小僧が一喝したのだ。
ここにはいって以来、ほとんど口をきかず、陰気に黙り込んでいて、これは五寸釘ほど有名人ではないと見えて名前も名乗らず、しかもどうやら五寸釘のほうが、その片目の痩せた男に一目も二目もおいている気配で、凶暴な囚人たちにも闇の精みたいにぶきみな印象を与えていたが、これがはじめて牢名主をどなりつけたのであった。
「おりゃ、そういうことを見るのはきれえだ。やめろといったら、やめろ」


ああ、かっこいい…… 
収録作の中でいちばん好きなのは「邏卒報告書」。
元巡査の囚人・畑寺。根っから善良で真面目な畑寺が地の果ての獄で再会したのは、自分を騙し裏切り続けた親友・高戸。
同じ枷に繋がれた二人は元親友同士でありながら姑息な高戸は何度も畑寺をそそのかし、その友情に付け込んで美味い汁を啜っていた。
高戸の裏切りがもとで巡査の職と最愛の妻子までも失い、地の果ての獄に送られた畑寺を待っていたのは元部下で現看守の堂目の凄まじい虐待。
しかし根っからお人よしな畑寺はそこでも元親友を庇い続け……

全部説明しちゃうとアレなんで、これはとにかく!読んで下さい。
騙され裏切られすべてを失った冴えない中年男、畑寺。
友人を破滅させておきながら反省の色はさっぱりなく、今また畑寺を踏み台に脱獄計画を練るこりない高戸。
最後の最後で畑寺が上げた台詞が、もうね……胸が熱くなる。涙がこみあげてくる。 
あの台詞を叫ぶまで畑寺が経てきた人生が走馬灯のように過ぎって、活字がぼんやり滲む。

傑作です。おすすめです。

関連記事 [読んだ本感想]
読んだ本感想 | コメント(-) | 20021009100239 | 編集
ブログ内検索
     © 2017 ロールシャッハテストB  Designed by 意地天