ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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アラビアの夜の種族(古川日出男)



奔放な空想はご所望ですか?


「弁明はそれで終わりか?」
「はい」
「なら、死ね」


書店に鈍器が売ってる……と思ったら古川日出男さんの「聖家族」でした。
古川日出男さんといえば独特の音楽的な文体でアグレッシブな物語を生みだし続ける今一番意欲的な作家。
そもそも分厚すぎて手に持って読むのが無理な「聖家族」は、東北のさる旧家を舞台に、一族代々の異能ゆえ迫害を受け続けた人間たちの歴史を描く。
あらすじだけだと桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」恩田陸「光の帝国」を連想しますね。
でも個人的に古川日出男の傑作だと譲れないのはこれ!「アラビアの夜の種族」。
長い!厚い!面白い!と三拍子揃った非常に贅沢な物語です。
聖遷暦1213年、偽りの平穏に満ちたカイロ。
訪れる者を幻惑するイスラムの地に迫りくるナポレオン艦隊。
対抗する手段はただひとつ、読む者を狂気に導き、歴史さえも覆す一冊の書。
ナポレオン率いる侵略軍を篭絡するため、読むものを惑わす伝説の書物を献上せんと上奏したのは文武に秀でた万能執事・アイユーブ。
エジプトを治める偉大なパシャの一人に仕える眉目秀麗頭脳明晰な執事・アイユーブは、主人の信頼と寵愛を受け出世を極めるも、その出自は一切が謎に包まれた特異な人物。
アイユーブが侵略軍を追い払うため献上を約束した書は、読んだものを魅了し破滅に至らしめる書は、しかし実は存在しない。全てはアイユーブの捏造、嘘だった。

アイユーブはその虚構を現実の物とするため画策を始める。

ないのなら作ればいいー……将軍ナポレオンをも魅惑し破滅させる書を。
この世の誰も読んだことない、どんな賢者をも一読白痴へとならしめる人間を毒する本を。
そしてアイユーブは「夜」ーライラの名を冠する稀代の物語師ズームルットを召還し、この世の誰も今だ見聞しない物語を乞う。
異国より来たりた暴虐の将を追い払うため、異教徒の邪眼からカイロを守る護符となるため、ここに空前絶後の千夜一夜物語が開幕するー……

物語は入れ子細工となっている。
「ないのなら作ればいい」というアイユーブの奇想から召還されたズームルットが夜を徹し滔滔と語り始めたのは、数千年、いや、人智では計り知れない歳月をも飲み込み遡る壮大なスケールの物語。
王の正当な嫡子でありながらその生まれつきの醜さ故疎んじられたアーダム。乳母より学んだ妖術と悪辣非道な知恵を駆使し成り上がり、蛇のジンニーアと契りを結ぶ。でもこの第一部は序章に過ぎず、続く第二部では主人公が変わり、アーダムの絶望に端を欲した新たな物語が始まる。
とにかく文章がすごい。最初は「読みにくいな~」と思ってたんですが慣れちゃうともー病み付きになる麻薬のような文体!ズームルットの語りはもちろん現実パートの文体もめちゃくちゃかっこよくて……

すでに殺人の季節は始まっていた。
カイロでは中世が断末魔をあげていた。


とか!あーもーたまんねーこれ、いいよいいよすごくいいよ、嚼めば咀むほど味が出る。

第二部は流亡の運命を背負ったアルビノの天才魔術師・ファラーと泥棒一家の秘蔵っ子として育ったサフィアーン、月と太陽と讃えられる類まれな美貌の拾い子二人の物語。
ファラーいいよファラー。この屈折した性格たまらない。プライドの高さたまんない。生まれ持った白髪と白い肌ゆえ森に捨てられるも、精霊と交感する「左利き族」に拾われ育てられる。
「お前は黒い人々との混血なのだ」と教えられ、森の外に棲むという黒い人々に憧れ続けるも、ある悲劇をきっかけに自分の中に流れる黒い血を憎むようになる……
一方サフィアーンは王の落胤という高貴な血筋ながら、泥棒一家に拾われ渡世術を磨き、誰もに愛される天真爛漫な(ちょっと、かなりおばかな)若者へと成長する。
この二人が出会いコンビを組み、アーダムが作った地下迷宮にして魔物の巣窟「阿房宮」に挑むのですが、ここらあたりの描写が凄い。まんまダンジョンRPGのノリというか、地下に街ができていく過程が詳細に描写されてワクワクする。
千年来の魔物の巣窟であり、邪悪な瘴気が篭もった阿房宮で常人が暮らすのは不可能なんですが、なら最初から狂ってるんなら問題ないじゃん?そうだね!と、なんと八千八百八十八人の奇人集団を送り込んで開拓の先陣を切る。もうむちゃくちゃです。この八千八百八十八人の奇人たちのはしゃぎっぷりがすごい(笑)魔物とドンチャン騒ぎをやらかすやら地中の滝で船遊びやらやりたい放題。

キャラでは男女問わず悩殺しまくるファラーが最高なんですが、蛇のジンニーアの徹底した蓮っ葉ぶりも大好きです。
「いいわ!それじゃあ姦ってちょうだい!」
ファラーとジンニーアの閨ごとの場面は完璧艶笑喜劇です。
サフィアーンもサフィアーンで
「ヤア、サフィアーン、おまえは自分がどうして獄舎のなかに入れられたかも知らない、それでサフィアーン本人にまちがいないって言えるんだろうか。危ない、やばいぞ、気が狂っちゃいそうだ。サフィアーンはサフィアーン、これを認めなかったら太陽だって月になり、エジプトだってアル・ヤマンになり、木曜日だって日曜日になり、三日後だって百年後になっちゃうぞ。ね、そうですよね、霊剣さん?」とテンパって霊剣に話しかけたり(饒舌が愉快すぎる……)キャラクターが憎めない。 

どうも私の支離滅裂な解説だとこの物語の面白さを上手く表現できないんですが、とにかく凄い。文章も描写も圧巻。
サフィーアンが閉じ込められた岩室で見る森の夢海の夢の描写はほんと幻惑的で……五感が酔って……文のリズムに身を委ねるだけで軽く異世界にトリップできます、本読んでこんな感覚味わったことって最近ないよ。よく「映像が目に浮かぶような」って褒め言葉でありますが、この場合は視覚・触覚・嗅覚・味覚と全部を揺さぶって訴えかけてくる。

作中作の物語と現実パートは交互に進むのですが、終盤、アイユーブの正体が明らかになるあたりは胸が詰まりました。切なくて苦しくて……アイユーブが失った物が余りに大きすぎて。空虚な入れ物にすぎなかったアイユーブが初めて自分の意志で行った選択、それを受けて語り始める糸杉には胸が熱くなって思わず涙が……

あー、とにかく凄いものを読んだって感じで読後は放心状態です………。

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