ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

最近のトラックバック
ブロとも申請フォーム
スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

関連記事 [スポンサー広告]
スポンサー広告 | コメント(-) | ------------ | 編集
漆黒の王子(初野晴)



 「上側の世界ではね」と、《王子》がいった。
 「弱者の存在は、周囲のやさしさによって穏やかに殺されているんだ。対立や摩擦を徹底的に避ける、一方的なやさしさにね。……ときどきそれが、ひどくつらいときがある」

 「もう一度お聞きしますが、代行に心当たりは……」
 「―お前、今まで知らずに踏んできた蟻の数を覚えているか?」


砂の城の哀れな王に告ぐ。私の名はガネーシャ。王の側近と騎士達の命を握る者。要求はひとつ。彼ら全員の睡眠を私に差し出すこと。
南国の鳥が繁殖した地方都市でおきる武闘派暴力団がターゲットの連続殺人。
眠ったまま死に至る謎の奇病に冒されたヤクザたち。
藍原組の組長代行・紺野に送り付けられる謎の脅迫メール。
裏で糸を引く『ガネーシャ』の正体とは……

悪意の話である。
邪悪な。邪悪な。ひたすらに邪悪で陰湿な。
二十七年前、同属の人間から迫害され差別され虐待され続けた二人の少年の出会いから全てが始まる。
互いを唯一の拠り所として寄り添いあう少年たちは人の憎悪と悪意を一身に浴び続け、やがて暴力と破壊衝動の権化ともいえる怪物へと変貌していく。

何故彼らはそうならねばならなかったのか。
そうしなければ生きていけなかったのか。

重苦しい話だ。陰鬱な話だ。作中頻出する暴力と人の醜悪さはあまりに陰惨で目を背けたくなる。

悲惨が鍛える魂は少ない。
大抵は腐る。
少年時代の凄まじいいじめを経て一人はヤクザの幹部に、もう一人は彼が唯一信頼する裏社会の情報屋となった。
破壊と暴虐の限りを尽くし、ひたすら破滅の道を転がり落ちていく彼等の殺伐と乾いた現在と、彼らがそうならざるえなかった背景を思うと胸が痛む。

チェインギャングと題された絵がある。
互いが互いに依存・寄生し、息苦しく複雑に絡み合って成長を続ける畸形の木。
まるで互いを締め上げるように共生する異形の木の絵が、紺野と高遠の姿に重なる。

紺野の側近・秋庭、紺野に潰された極道の息子で組の唯一の良心ともいえる水樹の視点で進む《上側の世界》と別に、どことも知れぬ荒廃した廃墟で目覚めた記憶喪失の異邦人の視点で《下側の世界》の話がすすむ。
《下側の世界》の謎が少しずつ明らかになるにつれ、《上側の世界》の事象も進行し犠牲者が増えていく。
本格ミステリとしての完成度は言うにおよばず、濃厚な密度で人の悪意を描いた物語として、非常に読ませる。

人はどこまで邪悪になれるのか。
人はどこまで残酷になれるのか。

チェインギャング。
手錠で繋がれた囚人の意。
互いに寄生せねば生きていけない二本の木。
何が彼らをそうさせたのか。

重い。とても重い。
この話では永久機関の無限連鎖に似て果てしなく悪意が蔓延していく。
同じ鳥でも姿の綺麗なワカケホンセイインコは愛でられ保護され、黒いカラスは疎んじられる。
人はインコに餌を与えても決してカラスに餌を与えない。
鳥の糞は始末してもホームレスの汚物には決して手を付けない。
冒頭に掲げたのは人知れず暗渠で暮らす《王子》の台詞。
中世欧州に実在した職業名を騙る六人の仲間とともに、日の光が届かぬ暗黒の暗渠で暮ら混血の浮浪児は《王子》を名乗り、「健常者に殺される弱者」の存在を達観した眼差しで示唆する。自分の名前と記憶を失い暗渠に迷い込んだ異邦人は《ガネーシャ》と命名され、瀕死のヒナを抱き、王子や住人の言葉に真摯に耳を傾ける。
 
一体ガネーシャはどのような方法を用い犠牲者を死に導いたのか。
犠牲者の遺体には外傷が見当たらず、薬物が使われた痕跡も一切ない。
眠ったまま人を死に至らしめるおそるべき方法とは?

その方法が発覚し、さらに犯人が犠牲者の体に「それ」を仕込んだ方法がわかった瞬間の驚きはあざやか。
その手があったか!と目から鱗がおちた。いやはや盲点。

この重苦しさは馳星周の「雪月夜」に通じる。
馴れ合いなどと生易しい言葉で括れない。
互いを憎みあってても決して離れられない関係がある。
世界に虐げられ続けた二人の少年がやがて大人になり、今度は自ら加害者として周囲に恐怖を撒き散らし、その過程で復讐者《ガネーシャ》が誕生する。
ナオユキの言葉を信じ「罪」の証拠を隠し続ける墓守りが切ない。
胸が、痛い。
痛いという言葉じゃ片付けられない、胸から喉元にかけて膨張した綿を詰められた感覚。 

幼い約束を軸にした暗黒の絆の物語だ。
男同士の友情。絆。
しかし紺野と高遠のあいだに存在するそれは軌道を外れた冥王星の如く限りなく負の方向に傾いている。
常識人で純粋さを失わない水城と親友・吉山の健全な友情とは対極に位置する二人の絆は、犠牲者の血と涙を吸った呪詛に縛られている。

暗闇で目覚めたガネーシャが大事に抱いていた一羽の雛はさしずめ炭鉱のカナリア。
カナリアは空気の清浄な場所じゃないと生きていけない。
炭鉱では鳥篭にカナリアを入れ、その弱り具合で酸素の濃度を測ったという。 
ホームレスが街の時間で暮らす《上側の世界》にも馴染めず、誰の目にもふれぬ死に場所をもとめ暗渠に落ち延びてきた七人の住人との対話を通し、ガネーシャが得たもの、取り戻した過去とは?

 
読んだ後、胸がふさがれてため息ばかり出た。
結末は予想できていた。覚悟していた。
しかしこの虚無感はどうだ。救いはどこにあるのか。

「に、二十七年前のフェンスを越えた出会いからすべては始まっていたのかもな。
……だが、間違っていたとは思いたくない」

それが救いなのか。 
多くの人間を不幸にし、取り返しのつかない災いをばら撒き、破滅に向かって一直線に走り続けた紺野と高遠のあり方を、しかし私は嫌悪すれども憎みきれない。どころか、ある種の共感さえ抱いてしまう。
読み終わってからプロローグに戻り、理不尽な迫害に遭い続けた「僕」の心情に寄り添って一縷の希望を見出せばなおのこと、彼等がこれから辿る人生を知ってるからこそ……どうしようもなく胸が痛む。苦しくて苦しくて、押し潰されそうになる。
 

初野晴。
すごい。

でも初めてがこれだときっついので(どんくらいきついかというと重松清に「疾走」から東野圭吾に「百夜行」から入るくらいです)最初に読むなら「水の時計」をおすすめします。
こっちも余力があったら感想書きたいんだけど……ちょっと今、へこみすぎてむり……

関連記事 [読んだ本感想]
読んだ本感想 | コメント(-) | 20020928204434 | 編集
ブログ内検索
     © 2017 ロールシャッハテストB  Designed by 意地天
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。