ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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 『リザ・スコテッシ ここに眠る』
 生没年と氏名と簡単な碑銘が記されただけの墓前に、シャツとジーパンという飾らない格好の女がひとり佇み、黙然と物思いに耽る。
 墓地の片隅の閑寂な区画にある真新しい墓。
 そこに眠るかつての友人に向け、あたかも彼女が生きているかのように語りかける。
 「ロベルト・フォルトは死んだわ」
 リザの葬儀費用はクイーンが負担した。
 ようやく連絡がとれたリザの家族は娼婦に身を持ち崩し、マフィア絡みの事件に巻き込まれ不慮の死を遂げた娘の亡骸の引き取りを拒否した。
 それ故、喪主は一切血の繋がりがないクイーン・ビーが務めた。
 親族が参列しない寂しい葬式だった。
 懇意の牧師に手配し、魂の安息を祈ってもらい、親しい友人だけを呼び、鎮魂の鐘を鳴らし。一人の女の生涯の幕を閉じるにしては、あまりに慎ましやかな葬儀だった。
 もう一週間も前の出来事なのに、いまだにリザが死んだ実感が湧かない。
 棺に納められた顔をしっかり見たはずなのに、冷たい手を握って別れを告げたはずなのに、リザが死んだなんて信じられない。
 末期の恐怖と苦痛を留めた断末魔の形相は丁寧な死に化粧で完全とはいかぬまでも復元され、胸の前で手を組み、ゆるやかに瞼を閉じたさまはまるで眠っているようだった。しかしリザはもう二度と目を開けない。
 質素な墓の前に佇み、平坦な声で告げる。
 「あなたを殺した男……被疑者死亡のまま書類送検されたわ。貴方を殺して逃亡して、その後すぐ。詳しい事はわからない。私も新聞の記事でしか知らない。時計台でマフィア絡みの揉め事があったとかで……でもね、結局遺体は見付からなかったわ。ただ、現場に毛髪と血液が落ちていて……鑑定の結果、ロベルト・フォルト本人のものだと判明したの」
 憔悴した面差しで俯き、歯痒く唇を噛む。
 リザを殺害し逃走したロベルト・フォルトもまた、マフィア絡みのトラブルに巻き込まれ、現場の残留物から死亡が有力視される。
 リザを殺した男はきちんと法に裁かせたかった。
 胸中で複雑な思いが絡みあう。
 こみあげる悲哀と悔恨とが喉を塞ぎ、息がしにくくなる。
 「リザ。あなたは幸せだったの」
 涙は一週間も前に枯れ果てた。クイーンは泣きもしない。
 気丈を装い、返事がないのを予期してなお毅然として聞く。
 新旧大小、さまざまに意匠を凝らした墓碑が人にも神にも忘却され立ち並ぶ荒涼たる光景に暗澹と気分が沈む。
 だれが活けたものか、リザの墓にはクイーン・ビーが訪なう前に黒いリボンを結んだ純白の百合が捧げられていた。
 愛した男の手で非業の死を遂げ、墓に葬られてからも絶縁した遺族は訪れず、びょうびょうと風に吹かれる墓に手向けられた百合の他に先客は痕跡を留めず、かえって寂寥感を引き立てる。
 答えのない問いかけはむなしく風に吹きさらわれ、クイーンの胸を冷やす。
 「あんな男に騙されて、殴られて。愛して愛して、尽くして尽くして裏切られて。結婚して、家庭に入るのが夢だったのに。前に話してくれたわよね、あなたの夢。素敵なソファーを買うんだって。家族で団欒できる、素敵なソファー。うちの店にあるようなどぎついピンク色じゃなくて……きらきらしいベルベッドでもなくて……何の変哲もない、ごく普通の。そこに腰掛けて、くだらないコメディを見て、笑い転げるんだって」
 くたびれた顔にふと感傷的な笑みが浮かぶ。
 青痣のできた顔に夢見るような表情を浮かべ、母と慕うクイーンに無邪気に夢を打ち明けたリザは、あの頃とても幸福そうだった。
 郷愁誘う回想が忘れたはずの胸の痛みをも呼び覚まし、口元に漂う笑みが薄れ、沈痛な翳りがさす。
 「あなたの夢、好きだったわ。叶えてほしかった」
 胸の痛みをごまかすように息を吸い、一回、強く目を閉じる。
 リザとの思い出が次々と浮かぶ。
 クイーンをママと呼ぶ声、明け透けな笑顔、控え室の鏡に向かい熱心に化粧を施すさま、スイートを可愛がる姿。 
 自分には何もできなかった。
 むざむざとリザを見殺しにしてしまった。
 あの時むりにでも止めていれば、ふたりを行かせなければ、リザは死なずにすんだのに。今でも笑っていたのに。
 罪悪感と喪失感に打ちひしがれ、下腹部できつく手を組み立ち尽くすクイーンは、忍び寄る靴音に肩を震わす。
 接近の気配と靴音に振り返れば、見慣れた男が立っていた。
 「…………よぉ」
 照れくさげに片手を挙げて挨拶する。
 「…………スヴェン」
 どうしてここにと首を傾げるクイーンの隣に立ち、肩に担いで持ってきた花束を墓の前に投げ出す。
 スヴェンらしく飾りけのない、素朴な心遣いが感じられる花束だった。
 「…………お墓の場所、だれから聞いたの」
 「店に寄ったらな。ピーの嬢ちゃんが、ママはここにいるって教えてくれてよ……途中で買ってきたんだが、センスねえのは見逃してくれよ」
 スヴェンがおどけて肩を竦め、背広の内ポケットをさぐり、よれた煙草を一本とりだす。
 慣れた手つきで煙草を口にさし、ライターで火をつけようとし、女教師に悪戯がばれた悪ガキのように横目でお伺いを立てる。 
 クイーンは苦笑する。
 「いいわよ、吸っても。そっちが風下だしね。リザも煙草を吸う人は嫌いじゃなかったわ」
 「そうか」
 言葉少なく頷き、改めて煙草を含み、点火。
 他に訪れる者もない昼下がりの墓地にふたり並び、周囲と比べ一際質素で真新しい墓石を見詰め続ける。
 不快ではない沈黙が落ちる。 
 陰鬱な灰色に打ち沈む墓地の中、凛と背筋をのばして立つクイーンの姿が鮮烈な印象を放ち、耳から顎にかけての意志的なラインが目立つ。
 数呼吸の沈黙の間、肩が触れそうで触れない微妙な距離に佇み、墓前にふたつ並んだ弔花を見比べる。
 一目で値が張るとわかる豪奢な百合の存在感に食われ、クリーム色のリボンを結んだマーガレットとかすみ草の花束は素朴で家庭的な可愛らしさこそあるが、いかにも安っぽく見える。
 クイーンはそちらのほうをより好ましく思う。
 「ロベルト・フォルトが死んだ」
 「知ってる。新聞で読んだわ。記事、小さかったわね」
 「ファイブリィじゃマフィアの撃ち合いで死人がでるのも珍しかねえからな」
 「マフィアの情夫に娼婦が惨殺されるのも?」
 意地悪い質問にもスヴェンは肩を竦めるだけ。
 「…………ごめんなさい。こんな言い方、フェアじゃないわよね。あなたは悪くないのに、いい年してやつあたりなんて」
 反省し、伏し目がちに謝罪する。
 漂い始めた気まずい雰囲気を払拭するように、口から煙草をはずしたスヴェンが、無神経を疑うほど明るい声で話題をかえる。
 「記事を読んだんなら知ってんだろうが、ロベルト・フォルトはリザ・スコテッシ殺害容疑で被疑者死亡のまま書類送検されたよ」
 「知ってる」
 「ま、やっこさんの死にゃ疑問も多い。ジズ・フィロソフィアが関わってんじゃねーかって一部じゃ囁かれてるが、真偽がどうもはっきりしねえ。時計台の撃ち合いに巻き込まれたってゆーが、死体も見付かんねーのは不自然だ」
 「相手はマフィアよ。……想像したくないけど、死体を残さず処理する方法なんていくらでもあるんじゃないかしら」
 たとえそうでもロベルト・フォルトに同情はしないけれど、と言外に私情を含ませ所感を述べるクイーンに軽く頷き紫煙を吐く。
 「同感。けれどもこっちもお役所仕事で、形だけでも捜査しなきゃなんねーんだ。まずは家宅捜索。ロベルトのアパートに踏み込んで、スコテッシ嬢殺害の手がかりか本人の死に関係する手がかりがねえかとさがしたんだが……」
 思わせぶりに言葉を切ったスヴェンに少しだけ興味を引かれ、クイーンが目で先を促す。
 「家宅捜査を始めてしばらくして、宅配業者がやってきたんだよ。ピンポーン、ご注文の家具をお届けにあがりましたってな」
 「家具?」
 予感に心臓が鼓動を打つ。 
 微妙に強張ったクイーンの表情を横目で読み、平静を装って紫煙を吸い、吐く。 
 「この忙しい時にって舌打ちしたけど、いつまでも廊下で待たしとくわけにいかねーしで、とりあえず中に通して包みを解いたんだ。何が出てきたと思う?ソファーだよ、マフィアの趣味にしちゃあ笑っちまうくらい可愛らしいソファー。優しいクリーム色で、殺風景な男の独り暮らしにゃお世辞にも似合わねえしろものだ。子供がいる家庭のほうがよっぽどしっくりくる。で、お前の話を思い出したんだよ」
 リザはソファーをほしがっていた。
 リザにとってソファーは幸福な家庭の象徴、手の届かぬ憧れ。
 結婚したらまず真っ先にソファーを買いたいと打ち明けたリザのはにかむような笑みが、眼裏にあざやかによみがえる。
 もしリザが、そのささやかすぎる夢を恋人にも打ち明けていたら。
 否。
 リザ自身に打ち明ける勇気がなくても、彼女の恋人であり、長く一緒にいたロベルトが言葉の端々やそぞろな態度から勘付いていたとしたら。
 「調べてみた。どうやらロベルト・フォルトは組織から足を洗いたがってたふしがある」
 「まさか。堅気になろうとしていたの?」
 「知り合いの話じゃあ最近ロベルトがこぼしてたそうだ。自分も年だし、裏社会の水もこたえる。そろそろ家庭に入りたいってな。その割にゃジズの言う事聞いて密売の立会い人だ運び屋だなんだとせっせと働いてたそうだが……引退を控えて最後の荒稼ぎに精出してたんだとしたら頷けなくもねえ。本気で堅気になるとなりゃ色々物入りだしな」
 でもママ、あの人本当はいい人なのよ。
 見てくれ怖いけど、すぐかっとして手をあげるけど、根っこは優しい人なのよ。ただ臆病なだけ。
 ロベルトを庇うリザの必死な台詞が耳の奥に響き渡り、表情を読まれるのを避けて俯き、強く唇を噛む。   
 「リザは騙されてたんじゃなかったの?あの男は、本当にリザを幸せにするつもりだったの」
 「少なくとも努力の痕跡はあった」
 「じゃあなぜ?」
 何故リザは殺さなければならなかったの。
 喉までこみあげたその言葉を理性を総動員し飲み下し、挑むようにスヴェンを見据える。 
 「ロベルトはロベルトなりにリザを愛してたんじゃねえか?あんまり感心できねえ愛し方だけどな」
 ロベルトの手で息の根を絶たれる瞬間、リザは何を思ったのだろう。リザの目には何が映ったのだろう。
 指に煙草を挟み、空にむけ盛大に紫煙を吐き出しながら、遠くを見るような目でスヴェンが呟く。
 「リザに内緒でソファーを注文したのは、きっと驚かしたかったんじゃねえか。ロベルト・フォルトはジズの犬で女に手を上げる最低野郎だが、だからといって、人の心を全部捨てちまったとは限らねえだろ」
 煙草をくゆらし、口角を引き上げるようにして自嘲する。
 「魔がさしたって言葉は好きじゃねーがな、それを信じたくなる時くらいあるさ。こんな職業だとなおさら、な」 
 「…………そうね」
 人は一人じゃ生きてけない。
 一人で生きていけるのは、悪魔だけだ。 
 ならばきっと、ロベルト・フォルトも弱くちっぽけな人間だったのだろう。
 女に縋らなければ生きていけない頼りない男で、愚かな夢を見た、ただの男。
 リザを殺した理由はわからないし、ロベルト・フォルトを許せはしないが、もしロベルトが本当にリザを愛しソファーを贈ろうとしていたのが事実なら、一抹の慰めと救いはある。
 そっと膝を揃えて屈み、愛情深い手つきでざらつく墓石に刻まれた名前をなでる。
 「リザ、よかったわね。貴方のロベルトは素敵な贈り物を用意してたわよ」
 貴女がそれを見れなかったのが残念だけど。
 本当の子供にするように碑銘をなでつづけるうちに、風の音に紛れて幻聴が届く。

 『私の勝ちね、ママ』

 ふと振り返る。
 最後に見た生前のリザの姿を回想する。
 ロベルトと腕を組み廊下を歩きながら、リザは本当に幸せそうに、恋に恋する小娘のように頬を上気させ笑っていた。  
 ならばきっと幸せだったのだろう。
 リザが不幸なだけだと決め付けるのは、生きてる者の傲慢だ。  

 「………貴女の夢、ちゃんと叶ったじゃない」
 少し遅かったけれど。
 墓石の前にしゃがみこみ、緩慢に碑銘をなで続けていた手がとまり、堪えに堪えていたものが一滴、リザの名前の上に落ちる。
 不器用に定評があるスヴェンはあえて背中を向け煙草をふかし、片思いの女の泣き顔を見ないふりをした。
 
 「今の先輩の精一杯っスね」
 沿道のパトカーから愁嘆場を眺めつつハンドルに両腕をのせたチャーリーがぼやく。
 黒塗りのいかめしい柵の向こう、教会の敷地の墓地に背中合わせに佇む男女の距離感に恋路の前途多難を予期し、思わず溜め息が漏れる。
 「ディアボロ君の言い分じゃないすっけど、ほんとまあ不器用な人っすYО。泣いてる女を抱きしめる度胸と甲斐性もないんすからネ」
 スヴェン・マーヴェリックが三十路童貞の汚名をすすぐ日はまだまだ遠いようだ。
  

                          +



 あれから数日が経過し、部屋には大音量のヘビィ・メタルが流れていた。
 へビィ・メタルが雷鳴の如く響き渡る中、ディアボロはキングサイズのベッドに寝転がっていた。
 メフィストにやられた傷はまだ完全には癒えておらず、腕にも足にも包帯が巻かれガーゼが貼ってある。
 仮にも絶対安静を義務付けられている身なのだが、ベッドから放れられないのは拷問に等しい。いまもディアボロは頭の後ろで手を組み、とくになにをするでもなく、暇な一日退屈を飼いならしていた。気晴らしにおもいきり銃を乱射したい。地下の射撃場に行き、片端から的を去勢したい。目鼻のない木偶の坊を木っ端微塵に粉砕し、憂さを晴らしたい。
 「よっしゃ」
 衝動的に起き上がるや肩に激痛が走り、体を二つに折る。
 声にならない声をあげて悶絶するディアボロをなげかわしげに見上げ、枕元に投げ置かれたファウストが訊ねる。
 『満身創痍でどこへ行くつもりだい』
 「歓楽街に行って3P」
 『3Pってなんだい』
 「……おまえに言ったおれが馬鹿だったよ」
 ごろんとふて寝した主人を気遣い、ファウストが変化する。銃口から漏れた煙がぼんやりと人の形を成し、数秒後にはアルビノの青年が現れ出でる。かすり傷ひとつない、きれいな顔のファウストを目の端で睨み、ディアボロが疑問を呈する。
 「卑怯だとはおもわないか」
 『なにが?』
 「生身のおれは傷だらけでベッドに束縛、精霊のおまえはこのとおりぴんしゃんしてる」
 『ぼくが望んだことじゃないよ』
 因縁をふっかけられ、首をすくめたファウストの傍らで身を起こし、三白眼ですごむ。
 「痛いのがスキってか。てめえマゾか」
 片ひざ立てたディアボロは、ファウストの襟首をぐいと掴む。
 「退屈なら拷問してやろうか。足の指にはちみつぬりたくって、先っちょから蟻にかじらせるんだ。鼻の頭にジャムぬって蟻をたからせるんだ。目ん玉に万年筆のペン刺して、ぐりっとえぐりだしてやる」
 ディアボロの目は爛々と輝いていた。サディスティックな興奮をおぼえ、ズボンの股間が猛る。ファウストは両手を挙げた。降参のポーズ。鼻白んだディアボロはまた寝転ぶ。足を組んで仰向け、隙間なくポスターで埋め尽くされた天井を仰ぐ。ファウストは主の隣で思案顔をしていたが、ふと手を叩いて提案する。
 『いいことを思いついた』
 無視をきめこんだディアボロにもくじけず、その隣でごろんと寝そべる。
 背中合わせに寝転ぶファウストに、ディアボロは問う。
 「……………ひとりダッチワイフごっこか?」
 『怪我が治るまで添い寝してあげるよ』
 ディアボロはまず最初に自分の耳を疑い、ついでファウストの正気を疑った。
 ファウストは本気らしく、目を閉じるや否や速攻で寝息をかきはじめた。少々わざとらしい、過剰な演技だ。反論する気力も失せ、大の字に寝転ぶ。隣からは鼾が聞こえる。鼾がヘビィ・メタルを打ち消すほど大きくなり、比例してディアボロの笑い声も大きくなる。
 片腕で目を遮ったディアボロは、最高のジョークを聞いたとでもいうふうにくつくつと笑っていた。
 「裸の野郎と寝た経験は腐るほどあるけど、服着たままは初めてだ」
 ファウストは正真正銘、ディアボロ・デミトリの初体験の相手だった。


                           +


 郊外の森に若葉で漉された清涼な陽射しが注ぐ。
 晴れ渡った蒼穹には小鳥が舞い、深緑の枝葉は方々にのびやかに四肢を広げる。
 小鳥の囀りと葉擦れの音が涼やかな旋律を奏で、オゾンの匂いがあたりに満ち満ちている。
 森の中に敷かれた小道を歩いているのは、スーツ姿の男だ。均整のとれた長身を人目をひいてあまりあるもので、その容貌は女性ならばだれもがため息を禁じえぬほど整っていた。きっちりオールバックに撫で付けた黒髪は若々しい艶を保ち、秀でた額には聡明さが漂っていた。切れ長の双眸は知性を帯び、若干近寄りがたい印象を抱かせるが、森を散策している今は柔和に細められ、男がおだやかな気分を満喫していることを暗に告げていた。下草を踏み、木漏れ日を浴び、無秩序に生えた梢の間を練り歩く。ポケットに指をひっかけ、心の底からリラックスした動作で足を踏み出す。
 「いい天気だな、ユーシン」
 『はい』
 男の呟きに慇懃に応じたのは、傍らに粛々と寄り添う女。
 いつのまに現れたのだろう。
 否、最初からそこにいたのだろうか。
 下腹部で軽く手を組み、衣擦れの音さえ殆どさせず、男に三歩遅れてついてくる。
 主人の影を踏まぬよう用心して歩を進めるユーシンを、ジズ・フィロソフィアは苦笑まじりに振り仰ぐ。
 「なにも怖じることない。俺とともに歩けばいいじゃないか」
 『いけません。私は使い魔ですから』
 万事控えめなユーシンにしてはいつになく強情に、きっぱりと断る。
 頑固なユーシンにジズはかぶりを振り、正面を向く。
 サクサクサク。
 草を踏む音が小気味よく響く。
 単調に足を繰り出しながら、ジズが言う。
 「時計台の一件は滞りなく処理した」
 ユーシンが顔をあげる。
 「警察上層部に金を掴ませ揉み消した。最も、破損部や血の跡はごまかしようがないからな……組織の末端構成員がはやって銃撃戦に及んだとでも上告する。デミトリ老も腹を探られるのは好まんはずだ。是が非でも話を合わせてもらおう、十分な報酬は渡してあるしな」
 『取引はどうなりました?』
 「白紙だ」
 ジズがくっと笑う。
 「あの晩の取引は無効だ。おれが希望したのは本の奪還じゃない、正確には本の中身の奪還だ。ただの器には興味がない。だが、デミトリ老がおれの要請どおり本を持ち帰ったのもまた事実。くわえて、こちらには配下が勝手な行動にでた負い目もある。言ってみれば五分と五分だな。だから、三代目とも相談してこういう結論にたどりついた。おれは歓楽街の土地の権利を、半分だけ譲る。歓楽街はデミトリ家とフィロソフィアカンパニーが分割して支配することになった」
 『あなたにご利益がないじゃありませんか』
 「かしこいな」
 ジズが含み笑う。
 「おまえのいうとおりだユーシン、たしかにそれでは俺に利益がない。からの本などもらっても役に立たないからな」
 一息つき、感傷を払拭する。
 「こちらにも弱みがある。マルコ・デミトリはこちらの予想以上の食わせものだ、交換条件を持ちかけた最初の段階でこちらを胡散臭いと思っていたのだから。ここはデミトリ老の顔を立て、大人しく引くしかない。歓楽街の全権を譲れと申し入れてこなかっただけまだしも僥倖というものだ……俺は貸しを作ったのだろうな。到底返しきれない、莫大な貸しを」 
 まじりけなしの畏怖と感嘆が口調に滲む。
 ジズはマルコ・デミトリを侮っていた。
 マルコ・デミトリが血のデミトリ家当主の座にあるのは、決して世襲制の帰結などではなく、純粋な実力によるものだ。
 マルコ・デミトリの暗殺は失敗した。
 当初のジズの計画では本奪還に赴いた手下の粛清を兼ね、デミトリ家の主力を削ぐ予定だった。
 しかし予定は覆され、計画は水泡に帰し、逆に天敵に弱みを掴まれてしまった。
 駆け引きに惨敗したにも拘わらず、どこか愉快げなあるじの様子を訝しみ、ユーシンが小首を傾げる。 
 『?』
 小道の真ん中で立ち止まり、翠の紗を織り成す天を仰いで深呼吸する。
 新鮮な空気で肺を満たし、体の隅々にまで木漏れ日を浴びる。
 森林浴は最良の気分転換になる。
 日頃血なまぐさい世界に身をおくジズには、郊外の森での散歩が週に一度の欠かせない習慣となっていた。
 「時計台で死闘を演じた少年の名はディアボロ・デミトリ……デミトリ老の孫、血のデミトリ家の四代目だ」
 ジズは笑っていた。心の底からたのしそうに。
 「あの少年はなかなかおもしろい。本の番人にパートナーとして選ばれただけのことはある。銃の腕はもちろんだが、それ以上のなにかが彼にはある」
 『それ以上のなにかとは?』
 「たとえば……そう、おれとおなじもの」
 ジズが思案げに唇をなぞる。ユーシンが不審げに眉をひそめる。唇から指をおろし、ジズは慎重に意見を述べた。
 「あの少年はまれに見る邪悪な魂をもっている。将来がたのしみだ。初めて同類を見つけたかもしれない」
 我知らず笑みが浮かぶ。ぞっとするほど酷薄な笑み。
 同胞との邂逅に狂喜する悪魔の微笑。
 ユーシンは息を呑み、主人の冷たく整った横顔を見詰める。
 サクサクサク。
 歩みを再開する。
 周りの景色を心ゆくまで楽しみ、ゆったりと歩く。
 ジズに従い、ユーシンもまたしとやかな小幅で歩き出す。
 互いに無言の時間が過ぎた。口を開かずとも、ユーシンにはジズの胸の内がわかる気がした。
 ジズの胸の内では、狂気と正気がせめぎあっている。
 「ロベルト・フォルトが起こした事件は被疑者死亡で送検された」
 ユーシンは『そうですか』と小さく答える。
 ジズが裏から手を回しそうさせたであろうことは想像にかたくない。
 ユーシンは静かに顔を伏せ、悪霊の生贄に供され男の冥福を祈る。
 哀悼の念に沈み、妖艶な睫毛を伏せて瞠目するユーシンを窺い、口火を切る。
 「フォルトには愛人がいた。歓楽街の娼館で働く娼婦、名はリザ・スコテッシ。シュタイン・ベックの次に殺された女、連続殺人事件の二番目の犠牲者だ」
 『愛する人の手にかかって死んだのですね』
 「愚かな女だ。フォルトと本気で結婚を望んでいたらしい」
 ユーシンは知っている。
 生前ロベルト・フォルトと交際していた不幸な女の墓に、ジズが百合の花束を手配した事を。
 愛した男の手によって惨たらしく殺された女へ、それがジズなりの追悼の仕方。
 「………だが。一人目は偶然の邂逅に過ぎなくても二人目には理由がある。悪霊に憑依され、ほぼ人格を失っていても、生前の記憶が僅かでも残っていたのなら……無意識に救いをもとめ、縋りに行った可能性もある」
 『心中ですか?』
 「図体の大きな迷子が母を求めるようなものだ。愛とは呼べない。ただの依存だ」
 何かを吹っ切るように断言し、まともにユーシンを見る。
 「おまえはおれの使い魔だ」
 ユーシンが顔をあげる。
 潤んだまなじりに映るのは表情を欠落させたジズの顔。
 ユーシンの頬に触れる。
 感触はなく、体温も感じない。
 だが、たしかにユーシンはそこにいる。
 嘘偽りのないひたむきなまなざしで一心にジズを見つめている。
 ユーシンの頬に手をあてがい、硬い声で告げる。
 「おれの前でほかの男の死を嘆くことは許さない」
 ジズはどこか思い詰めた目をしていた。
 母に去られることを恐れる子供のような、痛々しいまでに病んだまなざし。
 ジズがこんな目をすることはまれだ。
 ほかの女の前では自信家然とした暗黒街の帝王ジズ・フィロソフィアとして振る舞っているのに、ユーシンの前では虚勢が剥がれてただの男の素顔が覗く。
 ジズのまなざしを受け、ユーシンは下唇を噛む。
 肩におわされた重荷に耐えかねたようにうなだれたユーシンを前に、ジズはただ立ち尽くす。
 小鳥の囀りが耳を洗う。
 『…………努力します』
 鬢のおくれ毛が揺れ、香水の匂いが風に溶ける。
 ユーシンがよわよわしく微笑む。
 ユーシンの頬から手を放し、踵を返す。
 地面に落ちた小枝をへし折り、長い足を無造作に繰り出しつつ、ジズは背後に声をかける。
 「お前は優しくて愚かな女だ、ユーシン」
 『…………』
 鞭打つような叱責にユーシンが申し訳なさそうに俯く。
 悄然とうなだれるユーシンのほうを見ずに、ジズは歩き続ける。
 林立した梢の間から射した木漏れ日が目を貫き、手庇をつくり上方を仰ぐ。
 指の隙間から零れた陽射しが顔を照らし、小鳥の囀りがどこか遠くから聞こえてくる。
 「……俺は、お前のそういうところが存外嫌いじゃない」
 ジズの呟きは風に乗り、ユーシンのもとに届いた。
 ユーシンは顔をあげた。前方を歩くジズの背中は、心なしか照れているようにもみえた。
 頬を紅潮させ、ユーシンは笑う。
 大輪の牡丹が爛漫と花開くような、極上の微笑。
 『ありがとうございます』
 寄り添いながら小道を歩くふたりの姿は、木漏れ日に祝福された幸福な恋人同士に見えた

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Devilish | コメント(-) | 19951130110258 | 編集

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祖の血、生粋の邪悪なり。

其の目、生粋の暗黒なり。

彼の者地獄の最も深き渕から召喚されし奈落の王なり。

地をあまねく災厄で覆い屍の山を築く者なり。

乳飲み子の悲鳴に耳を傾け骸の頂で眠る者なり。

処女の断末魔を肴に美酒を傾ける暴君なり。

老若男女問わず屠り尽くすサタンなり。

彼の者、実に悪魔なり。


柵深さまから頂いたDvilishよりディアボロ。
かっ……かっこいい……凶暴!凶悪!邪悪!と三拍子そろったワイルドスマイルに痺れます。しかしちくわ。何故にちくわ。それは今日が11月11日だからさ。アンジェリコスナフ行方不明。颯爽と靡くマフラーがかっこいい……!

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あるじの暴挙に困惑するファウスト(タ)。

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俺様と下僕。

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幼女ファウスタさん。清楚!可憐!ちらっと覗いてるピンクテールはスイート?

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クイーン・ビーとスイート・ピー。クイーンがイメージどおり落ち着いた大人の女性でスイートがふわロリ可愛くてツインテールを引っ張りたい。
某刑事「クイーン俺だ!結婚してくれ!」「禁煙したらね」

柵深さま、素晴らしいイラストありがとうございました!
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Devilish | コメント(-) | 19951130110257 | 編集

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右手さまから頂いたDvilishよりディアボロ。
か……かっこいい……紫と黒がとてもスタイリッシュです!この人を小馬鹿にした薄笑いと茶化したポーズがまさにディアボロ!悪魔の申し子!タイトルもポスターみたいですごく決まってます!!見とれてしまう……。
右手さま、素晴らしい頂き物ありがとうございます!感激です!

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Devilish | コメント(-) | 19951130110256 | 編集

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あねこさまから頂いたDevilishよりディアボロ。
か……可愛い……!唯我独尊傲岸不遜、俺様何様マフィア様な表情がとてもディアボロらしくて愛らしいです!銃を掲げるポーズもノリノリだ!
アンジェリコ・スナフのデザインがとてもスタイリッシュでお気に入りです。
あねこさま、素晴らしいイラストありがとうございます!

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Devilish | コメント(-) | 19951130110255 | 編集

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Who killed Cock Robin?
I, said the Sparrow,
with my bow and arrow,
I killed Cock Robin.


「誰がロビンを殺したか そいつはオレだと黒雀。
オレとオレの四十五口径で射止めたのさ」

右手様から頂いたディアボロ。銃を持つポーズとかとてつもなく悪そうな笑顔がまさしくディアボロで痺れます。黒スーツかっこいい……似合う……!ポスターみたいにスタイリッシュな色合いと構図も大好きです、溢れんばかりのセンスを感じます。
右手様、素敵な頂き物有難うございます!


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Devilish | コメント(-) | 19951130110254 | 編集

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「地獄に逝くか天国にイくか選びやがれ」

あねこさまから頂いた超ノリノリのディアボロ。
右手に相銃&愛銃、左手にグリモア。そんなよんでますよファウストさん。

このやんちゃかつ凶悪な笑顔が物凄くディアボロっぽくてたまりません、苛めて遊びたい!!(酷)
ベルトの装飾が凝っていて素敵です。類まれなるセンスを感じます。

「生贄は×××でいいか?」
「僕はサキュバスじゃないからね」
以上倫理上の配慮により副音声でお送りします。

あねこさま、素晴らしい頂き物ありがとうございます!

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Devilish | コメント(-) | 19951130110253 | 編集

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はじめさまから頂いた相互リンク記念女子組、恵(左)とスイート(右)。
精神年齢は同じ位かややスイートのほうが幼め。
色遣いがポップでファッションもお洒落!ふたりともとっても可愛いです!
右はやさぐれ中年スヴェンさん。禁煙失敗しました、そんなかんじで。このくたびれた感じがたまらない……!
はじめさま素敵な頂き物ありがとうございます!

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Devilish | コメント(-) | 19951130110252 | 編集

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「デミちゃんピースピース!」

コウキさんから頂いたスイート。
か、可愛い……思わず抱きしめてなでくりしたくなる可愛さ!スイートマジ天使!
ふにゃっとした笑顔とぺたんこな胸にロリータの魅力満載ですね!
コウキさま、素晴らしいイラストありがとうございます!

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Devilish | コメント(-) | 19951130110251 | 編集

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あねこさまより頂いたディアボロとファウスタ。
銃を構えたポーズも白マフラーとシャツ襟立て黒スーツの引き締まった対比と相まってすごくスタイリッシュでかっこいいです!ファウストのぴょんと跳ねたアホ毛がこれまた愛らしく……!ワンピースを着ててもはっきりわかる扁平な胸に萌え滾ります。

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「見えてるのがいいの?見えないのがいいの?スイートはねえ、いないないばあ!だよっ」

スケスケスイート。キッチュでロリポップなエロ可愛さに胸のときめきがたまりません指名したい。
あねこさんの「買いたいというより飼いたい」発言がツボに嵌まり過ぎて……

あねこさま、素晴らしい頂き物ありがとうございます!

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Devilish | コメント(-) | 19951130110250 | 編集

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「跪いて靴を舐めな」
「御意、ご主人様」
片膝の汚れと引き換えに忠誠を。

なぎさまからの頂き物、フールソウルファウストとそのご主人様。
ファウストの透明感ある微笑みと好対照なディアボロの不敵な笑みにぞくぞくします。ふたりともかっこいい……!主従と相棒な関係を彷彿とさせる絶妙な距離感にとても萌えます。
そしてなぎさまの服の皺の表現がとても好きです。
アニメ塗り万歳!

なぎさま、素敵な頂き物ありがとうございます!
色違いバージョンも素敵……!

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Devilish | コメント(-) | 19951130110249 | 編集

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あねこさまから頂いたスヴェン。
右手が恋人左手が愛人、そんな寂しい中年刑事。
鋭いまなざしと漂う哀愁、気だるい大人の色気にドキドキします……!
あねこさま、かっこいいスヴェンありがとうございます!

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Devilish | コメント(-) | 19951130110248 | 編集

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I can fly!

さくみさまから頂いたDvilishのディアボロ・ファウスト・ファウスタ。
今日も絶好調に靡いてるぜ!
三者三様の特徴の捉え方がお見事。ポーズにも個性が出てて楽しいです。
さくみさまのSDイラスト可愛くて大ファンです。

さくみさま、素晴らしいイラストありがとうございます!

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Devilish | コメント(-) | 19951130110247 | 編集

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「デミちゃんスイートとあそんであそんでー」
「自慰でもしてな」
「(じーーーーーーー……)」

千迅さまから頂いたスイート。下着がすっごく凝ってて可愛らしいです……ラブリー&セクシー&キュート!抱きしめたいかわゆさ!この太腿に挟まれたいです。
千迅さま、素晴らしい頂き物ありがとうございます!

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Devilish | コメント(-) | 19951130110246 | 編集
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